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(5)腰部脊柱管狭窄症 間欠跛行あれば要注意 川崎医大脊椎・災害整形外科学教授 川崎医大病院整形外科部長 長谷川徹

 はせがわ・とおる 倉敷青陵高、川崎医大卒、同大学院修了。米国ウィスコンシン医科大、ドイツケルン大、英国オックスフォード大留学。2010年から現職。日本整形外科学会専門医、日本脊椎脊髄病学会指導医、日本整形外科学会脊椎内視鏡下手術技術認定医。

 ほとんどの方が生涯のうちに一度は腰痛を経験し、米国における就業年齢の人々に対する調査では、50%が毎年腰部の症状を認めていて、45歳以下の人々の就業不能の最も高い理由とされています。わが国においても、2010年の厚生労働省国民生活基礎調査によれば腰痛の有訴者率(腰痛を訴える割合)は男性1位、女性2位となっています=図1a、b参照

 このように腰痛は一般的な病気の一つであり、その患者数は年々増加傾向にあります。今回は腰痛(下肢痛や下肢のしびれも含む)の原因として重要な腰部脊柱管狭窄(きょうさく)症についてお話しします。

 脊柱管とは椎体、椎弓、黄色靭帯(じんたい)などによって囲まれた管を言います。腰椎では、この中に馬尾神経や神経根が通っています。

 腰部脊柱管狭窄症とは、加齢変化などによって脊柱管が狭くなり、そのなかを通っている神経が圧迫されることによって、腰痛や脚のしびれなどのさまざまな症状が出てきた状態を言います。ある集計では70歳以上の方の約半数が罹患りかんされていると言われています。そして、高齢者社会を迎えているわが国においては今後も増えてくることが予測されています。

 特徴的な症状は「間欠跛行(かんけつはこう)」です。間欠跛行とは、歩き始めはとくに症状が強いわけではなく、しばらく歩くと脚が痛くなったり、しびれたり、こわばったりして歩くことができなくなる状態を指します。重症の場合は50メートルも歩かないうちに症状が強くなって歩けなくなるとか、5分程度立つだけで症状が出たりします。しゃがんだり座ったりすると症状はすぐに軽くなり、また歩いたり立ったりできるのが特徴です。これは立つことで構造上、脊柱管がいっそう狭くなり神経を圧迫するためで、体が前かがみになると脊柱管がやや広くなり、神経圧迫は解除されて症状は軽くなります。

 腰部脊柱管狭窄症は多くの場合、安静・消炎鎮痛薬や血流改善薬などの薬物療法・装具療法・理学療法・ブロック療法などの保存的治療などが有効です。しかし、保存的治療によっても良くならない場合や、日常生活や社会生活に支障をきたす場合には手術療法を選択することもあります。当科では内視鏡を用いた方法を行っています。

 この方法は、特殊な器具を用いて、片側の椎弓のみに到達してスペースを確保します。こうしておいて内視鏡で見ながら、まず進入側の、圧迫の原因となっている黄色靭帯と椎弓の一部のみを切除します。そして反対側に対しては、脊柱管の内側から神経を圧迫している部分をくり抜くように切除します。従来の方法では両側の筋肉や脊椎・関節に侵襲がおよんでいましたが、この方法によって反対側の筋肉や脊椎・関節への侵襲を避けることが可能となりました=図2参照

 この方法の利点は、

・腰の部分の小さな手術創で行うことができます。1レベルの狭窄であれば2センチ程度の創となります。

・筋肉や骨への侵襲も最小限にとどめることが可能で、手術後の創の痛みが少なくなります。

・狭窄部以外の健康な組織への侵襲が少ないため、手術後の日常生活への復帰が早くなります。

・通常、手術の翌日から座って食事をしたり、歩いてトイレに行ったりすることができます。

・創の治りが順調であれば手術後約1週間で退院できます。

 今回は、腰痛(下肢痛や下肢のしびれも含む)の原因として、代表的な腰部脊柱管狭窄症についてお話ししましたが、このほかにもいろいろな原因で生じることがあります。お困りの場合には、ご遠慮なく専門医の診察をお受けになられることをお勧めいたします。

 =おわり=
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年11月04日 更新)

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