文字 

(7)慢性痛と向き合う多面的アプローチ 笠岡第一病院ペインクリニック内科部長 森田善仁

森田善仁・ペインクリニック内科部長

 「Pain Japan 2010」という痛みの大規模調査によると、慢性痛を抱えている人は日本国内に約2315万人いると推計され、その約7割が「満足いく程度に痛みが緩和されていない」と感じているそうです。実際に、ペインクリニックの日常診療においても長引く痛みに苦悩されている患者さんは少なくないと感じます。

 「恐怖―回避モデル」という、痛みの慢性化につながる典型的なパターンがあります。そのパターンとは、痛みの体験を悲観的にとらえると、「また痛くなるのではないか」「もう治らないのではないか」と恐れて体を動かさなくなって、筋肉や関節が固まってしまい、次第に運動機能は低下し、うつ状態に陥り、痛みがさらに激しくなるという悪循環を形成します。特に、運動習慣のない高齢者が慢性痛を抱えた場合に、このような「痛みの悪循環」をきたしやすいと考えられます。超高齢化社会の到来により、今後ますます慢性痛に対する対策が重要になると思われます。

 近年、「痛みの悪循環」のような複雑な慢性痛に対する治療では、薬物治療や神経ブロック治療などに加えて、運動療法や心理療法を組み合わせる多面的アプローチが強く推奨されています。笠岡第一病院では、複雑な慢性痛の治療として、ペインクリニック内科(痛みの診断・治療を専門的に行う診療科のこと)とリハビリテーションセンターが連携して、「慢性痛管理支援プログラム」という多面的アプローチを試みています。このプログラムでは、まずペインクリニック専門医による痛みの評価・診断を受けていただきます。そこで患者さんの痛みの状況に最適の治療法を選択します。

 引き続いて、理学療法士による運動能力や生活能力の評価を受けていただきます。運動療法は、痛みのために失ってしまった健康を回復し、動ける体を取り戻す“鍵”となる重要な治療法です。患者さん個別にデザインされた運動プログラムで、理学療法士がマンツーマンで実施します。痛みの部位に対応したストレッチングや筋力増強訓練=図参照=を中心に、軽度の運動から始め、徐々に強度を漸増させていきます(漸増運動療法)。身体を動かすコツが身に付いたら、在宅で自主訓練として習慣化できるように工夫しています。

 さらに、このプログラムでは痛みについて正しい知識を持っていただくことで、患者さんが安心してご自身の痛みと向き合い、「痛みのために何もできない」から「痛みがあってもこれこれはできる」というポジティブな考えに転換できるように支援していきます。痛みの悪循環をきたしている患者さんでは、運動をやりすぎて痛みが強くなると、一転して全く動かさないといったように極端なケースも散見されますが、ほどほどの、良い加減な運動を継続することが肝心です。

 運動のペースを守って、良い加減な運動を習慣として行っていきましょう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年11月18日 更新)

タグ: 笠岡第一病院

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ