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(8)透析をする高齢者の痛み 体を動かすことの大切さ 笠岡第一病院ペインクリニック内科部長 森田善仁

森田善仁・ペインクリニック内科部長

透析中にエルゴメーターをこぐ

 透析人口は、2011年に全国で30万人を超えて、一貫して増え続けています。また、同年の透析患者の平均年齢は66・5歳、同年に新たに透析を導入した患者さんの平均年齢は67・8歳であり、透析患者の高齢化が進んでいます。実際に、笠岡第一病院透析センターにおいて同年に導入した患者さんの平均年齢は77・1歳です。さらに、透析医療の目覚ましい進歩により、10年以上の長期透析が当たり前の時代になりました。このような背景から、いま透析医療において、高齢化や長期化が深刻な問題になりつつあります。

 透析人口の高齢化により、加齢に伴って生じる腰椎症や変形性関節症などの運動器疾患(身体運動にかかわる、骨、筋肉、関節などの疾患)が増加しています。それに加えて、長期透析では、アミロイド骨関節症や骨ミネラル代謝障害などの透析合併症により骨がもろくなって、骨折や関節痛を生じることがあります。2012年に当院透析センターでは、慢性痛を訴える透析患者の割合は61%(そのうち39%は中等度から強度の痛み)、その大多数が腰痛、関節痛などの運動器の慢性痛です。

 一般に、透析をする高齢者では筋力低下・筋萎縮・心肺機能低下などで運動機能は低下しています。日常生活の制限や精神的ストレスを伴う透析を続けているところに、痛みの持続が加わることにより、ますます運動機能が低下し、ご自身で通院ができなくなるといった、不活動(体を動かさないこと)の悪循環に陥る可能性も少なからずあります。透析患者の生活の質(QOL)を改善するためには、運動機能をいかに維持・向上するかが重要ですが、そのためには痛みを改善することが大きな課題になります。

 透析患者では、痛みの治療に使用できる薬の種類や量に制限があることもあって、薬物治療だけでは十分な鎮痛が得られない場合が少なくありません。特に、不活動の悪循環のような複雑な痛みでは、痛みの治療に運動療法や心理療法を組み合わせる多面的アプローチが推奨されています。このようなことから、当院では、透析患者の複雑な痛みに対して、ペインクリニック内科(痛みを専門的に診断・治療する診療科)とリハビリテーションセンターが連携して「透析患者における運動習慣獲得支援プログラム」を試みています。このプログラムにおいて中心的役割を担うのは運動療法です。

 近年、透析患者に対して運動療法を実施すると、運動機能が回復しQOLが向上することが知られるようになり、透析患者に対する運動療法の重要性が高まっています。米国腎臓財団によるK/DOQIガイドライン2005年度では、「透析患者の運動の奨励を積極的に行う必要がある」と明記されています。しかしながら、慢性痛を訴える透析患者さんに、運動療法と称してやみくもに“体を動かしましょう”では痛みの増強・再発を招くだけですし、そもそも強い痛みがある場合に体を動かすことは至難の業です。つまり、「痛みをこらえながら体を鍛える」ことよりも、「痛みの出ない軽めの運動を継続する」ことのほうが痛みの軽減につながります。

 当院のプログラムでは、痛みが運動の妨げになる場合には、ペインクリニック専門医による痛みの評価・治療を受けていただきます。そこで、薬物治療や神経ブロック治療により積極的に痛みを緩和しながら、理学療法士がマンツーマンでそれぞれの患者さんの痛みに対応した継続しやすい運動を指導します。また、リハビリテーションセンターへ通う時間がない患者さんには、透析の際に運動を実施するプログラムを作成しています。例えば、図のように透析中にエルゴメーターをこいでもらうことで、効率的に運動を行うことができます。

 さて、痛みをやわらげ、自分で動ける力を維持するために、運動を始めてみませんか。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年12月02日 更新)

タグ: 笠岡第一病院

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