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家族が認知症になったとき 万成病院医師・高橋弘美

万成病院医師・高橋弘美

(表1)

(図1)

 現在日本は高齢化がすすみ、それに伴って認知症高齢者の数も大変増加しています。2012年には、認知症高齢者は300万人を超え、65歳以上の10人に1人が認知症にかかっていることになります。身近な人が認知症になることもあるでしょう。もしも、家族が認知症になったとき、何をしたら良いのか、どんなふうに接していけばいいのか、多くの方が、不安に思っておられるのではないでしょうか。認知症に関わる医師として、皆さまのご参考になるお話ができればと思います。

 まず、認知症とはどんな病気なのでしょうか。

 認知症は脳に起こってくる病気です。脳の神経細胞が何らかの原因で死んでしまい、記憶、見当識(これは時間や場所がわかるということです)、理解力、思考などの認知機能が障害され、日常生活に支障を来します。

早めの受診を

 表1は認知症初期に出やすい症状です。このような症状があったら、早めに専門医を受診されることをお勧めします。

 その一番の理由は、治療可能な認知症を見逃さないためです。認知症の原因はさまざまです。中には、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下症のように治療によって治るものがあります。また、薬の副作用によって、認知症様の症状が出ていることがあり、内服を中止するだけで改善することもあります。

 たとえ治療可能な認知症でなかったとしても、認知症の原因によって症状、経過、治療が異なってきます。アルツハイマー型認知症では、現在4種類の治療薬があり、進行を遅らせることができます。主治医とよく相談し、知識を得ることで安心感が得られ、長期的な展望を持つことができます。

サービスの利用

 現実的な家族の負担を減らすためには、サービスの利用は不可欠です。介護保険を申請し、デイケア、訪問介護、ショートステイ、施設入所を利用することで、家族に余裕ができ、本人も社会とのつながりができるといったメリットがあります。成年後見制度を利用した財産管理が必要なこともあります。病院のソーシャルワーカーや地域包括支援センターにご相談ください。

不安や孤独を和らげる接し方を

 いろいろな支援があるとはいえ、認知症の症状のために混乱しているご本人にどう接していけばいいのかは、ご家族が一番悩むところです。

 認知症になると、記憶、見当識、理解力、思考力といった機能が障害されます。新しいことが覚えられず、今自分のいる場所や、今日が何日か、季節はいつかがわからず、他の人の話している内容や、周りの状況を理解することができなくなります。こうした症状は認知症には必ず起こってくる症状で、「中核症状」と言われます。神経細胞が障害された結果で、改善の難しい症状です。

 中核症状に、環境の変化、身体疾患、薬物、性格、心理的問題などが影響を及ぼすと、妄想、徘徊(はいかい)、攻撃性、拒否、暴力、抑うつ、不安、不眠などさまざまな症状が出てきます。これらは、行動・心理症状と呼ばれ、誰にでも現れる症状ではありませんし、影響している要因を取り除くことで改善できます。しかし、介護を非常に困難にする症状です=図1参照

 認知症の方は、中核症状のために、日常生活が非常に困難になり、孤独で不安な状態にあります。困難さを自分なりに解決しようとしますが、認知機能が低下しているため適切な対処ができずさまざまな行動・心理症状となって現れてくるものと思われます。中核症状は改善できなくても、日常生活を支援し、不安や孤独を和らげることで、行動・心理症状を緩和することができます。私は、普段次のようなことを心がけています。

 (1)目線の高さを合わせて話す=車いすやベッドの方と話す時には、腰を低くして、見下ろさないように。敬意の気持ちの現れです。

 (2)イライラしている時には、少し気持ちを鎮めてから=イライラした気持ちは、相手に伝わります。

 (3)話をよく聞く。間違いを指摘しない=中核症状からくる記憶や思考の間違いは指摘しても訂正されません。むしろ、非難された、ばかにされたと感じるでしょう。自分の話を真剣に聞いてくれている、受け入れてくれているという感覚が安心感を与えます。

 (4)できることはしてもらう=日常で繰り返してきたことや、身体で覚えたことは認知症になっても忘れにくいものです。できることをしてもらうことで自信がつき、感情の安定や意欲の向上につながります。機能の維持にもなります。

 (5)昔の話を活用=新しいことは忘れても、古い記憶は驚くほど残っています。若く、活躍していた頃の話は自己評価を高め、感情を安定させます。

 (6)恥ずかしい思いをしないように気を配る=人前での叱責(しっせき)や、失敗を指摘されることは、つらいものです。怒りや攻撃性を引き起こすでしょう。

 もちろん、接し方だけで症状がすべて解決するわけではありません。種々の要因が複雑に絡み合います。暴言、暴力や幻覚妄想、事故の危険のある徘徊等は、薬物療法や入院治療が必要です。専門医に相談して適切な治療を受けましょう。一人で抱え込まず皆で支えることが大切です。

 たかはし・ひろみ 徳島市立高、徳島大医学部卒。慶應病院、徳島大学病院、園瀬病院(徳島市)などを経て2006年から万成病院常勤。精神保健指定医、臨床研修指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年12月02日 更新)

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