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(9)放っておくと怖い手の病気のお話 笠岡第一病院 手外科上肢外科センター医長 兒玉昌之

兒玉昌之医長

 直立二足歩行をする唯一の生物である人類は、移動手段としての役割から解放された手を独自に発達させてきました。SF映画の主人公は戦いで失った手を義手に取り換えて何事もなかったように活躍しますが、現実には飛躍的な進化を遂げた義足とは対照的に義手の進歩は遅々として進んでおらず、手の機能が換えのきかないものであることを象徴しています。健康寿命を保つ上で、手の健康を損なわずに年齢を重ねることも重要なことであると言えます。

 手の機能が失われるのは多くの場合手の怪我(けが)をしたときです。残念ながら怪我は不慮の事故で起こることが多く未然に防ぐことができません。もちろん怪我をしたら早めに病院を受診して適切な治療を受けていただくことが機能を保つ上で重要ですが、怪我の程度がひどい場合はある程度の後遺症は避けられません。

 一方、最初の症状は軽いものの放っておくと大きな後遺症が残る可能性のある手の病気も存在します。こういった手の病気は適切な時期に適切な治療を受ければ問題なく治ることが多く、それぞれの病気についてよく知っておくことが手の機能の維持に重要です。

 手の病気のうち、最もよく知られているのは「ばね指」でしょう。これは腱(けん)がそれを支える腱鞘(けんしょう)と呼ばれるトンネルに引っかかって指が曲がったままになる病気です。この引っかかりが外れる時の指の動きを表現したのが、ばね指という言葉で、指の根元の手のひら側にある1番の番号がついたトンネル(腱鞘)に原因があることが多く、ここに炎症を抑える薬の注射を行ったり、手術してこのトンネルを開けてしまう=図1参照=ことで治療します。

 ばね指には程度があり、症状が重くなると引っかかりが簡単に外せなくなりさらに進むと反対の手で手伝わないと外せなくなります。最後には指が引っかかったまま伸びなくなったり曲げることすらできなくなることもあり、ここまで進行すると多くの人は病院を受診されます。しかし中にはそのまま長期間放置される方もおられ、時間がたってから手術を行っても元に戻すのは難しくなります。引っかかりが簡単に外せない段階になれば日常生活にも支障が出ますから早めに治療した方がよいでしょう。

 次に取り上げるのは「手根管(しゅこんかん)症候群」です。これは手首の手のひら側にある、骨と靱帯(じんたい)に囲まれた「手根管」と呼ばれるトンネルの中を通る「正中(せいちゅう)神経」が圧迫されて起こる病気です=図2参照。親指から薬指にしびれが生じ、薬指のしびれは親指側だけであることが特徴で、この症状のある人のほとんどは手根管症候群です。正中神経はつまみ動作を行う際の親指の動きに重要な筋肉を支配しており、症状が進むとそれらの筋肉の動きが悪くなってボタンをはめるなどのつまみ動作に支障が出ます。治療は初期には薬の服用や炎症を抑える薬の注射などで良くなることもありますが、ある程度進行すると手のひら側にある靱帯を切り離す手術が行われます。

 やはり手根管症候群にも程度があり、指のしびれだけでなく、つまみ動作に支障がある進行した方の治療結果は良くありません。笠岡第一病院で手術をさせていただいた方のうち、手術前につまみ動作の支障がみられた方の約4分の1に十分な回復が得られませんでした。場合によってはつまみ動作の機能再建術を必要とすることもあります。しびれを自覚された段階で病院を受診していただき、程度を評価して進行する前に治療を受けていただくことが重要です。

 今回は代表的な二つの手の病気を取り上げましたが、その他にもさまざまな手の病気や怪我があります。日本手外科学会のホームページに代表的なものの解説が掲載されていますので、ぜひご一読ください。

      =おわり=
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年12月16日 更新)

タグ: 笠岡第一病院

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