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(2)双極性障害 万成病院副院長 清水義雄

しみず・よしお 倉敷古城池高、岡山大医学部卒。岡山県精神科医療センター、米国ロックフェラー大留学、国立病院機構岡山医療センターなどを経て、2009年から万成病院に勤務。日本精神神経学会指導医・専門医、精神保健指定医、日本医師会認定産業医。

 双極性障害という病名を聞かれたことはありますか? 以前は躁(そう)うつ病と言われていた、躁病とうつ病を繰り返し発症する病気です。誰でも気分が高ぶったり、落ち込んだりすることはありますが、その程度と持続期間が正常とは異なります。

Aさんの場合

 50歳の男性Aさんは、元来まじめできちょうめんな性格ですが、約10年前より躁状態とうつ状態を繰り返し、何度も入院歴があります。病状が落ち着いている時には家業の農業を営んでいますが、夜眠れなくなり、また眠らなくても何ともないと感じ始めると要注意です。次第に多弁となり、次々とアイデアや考えが頭に浮かび、気分が良すぎる、いわゆるハイな状態が1週間以上続き、その後ますます程度もひどくなってゆきます。

 畑に手を加えれば収穫が3倍になるなどと言いだし、自分では使えもしないパワーショベルを購入する、俳句集を出すと言って出版社を訪れたり、発明品の商品化について商社に電話をかけたりといろいろなことをやり始めますが、まったく落ち着かず集中して行うことはできないため、家業の農作物は枯れてしまいました。散財、女性問題などの逸脱行為が出現しますが、家族の制止はまったく聞き入れずに活動的に走り回っています。

 表1にまとめたこのような状態が躁状態で、そのまま放置すると多額の借金を抱えたり、人間関係を乱して信用を失ったり、場合によっては社会的地位を失うなど取り返しのつかない状態になってしまうため治療が必要となります。しかし本人には自分が病気であるとの意識は無いことが多く、治療への同意が得られず強制的な入院が必要なこともあります。

心身ともに休めるように

 薬物療法が重要で、主に感情安定剤や抗精神病薬といった薬剤を使用します。まずは心身ともに休めるようになることが目標となります。そして元来の落ち着いた状態となった後に普通の社会生活に戻り、引き起こしたトラブルや問題を解決してゆかなくてはいけません。それはストレスを伴うものなので、その後も躁状態の再発や反対のうつ状態となることがあり注意が必要です。

 Aさんも躁状態が落ち着いた直後やその後の経過中に、数カ月にわたる表2に示したようなうつ状態が出現することも多くありました。躁状態の時とは一転して、抑うつ感、興味・意欲の低下に苦しむようになります。躁状態の時に引き起こしたトラブルも、うつ状態における本人の自責感をより増悪させます。躁状態の時に起こした借金や女性問題のため家族関係が悪化していることも、うつ状態や躁状態の再出現の誘因になります。

再発予防をどうするのか

 躁状態、うつ状態自体は永遠に続くものではなく、時がたてば必ず落ち着くものです。しかし、たった1回の躁状態でも放置していると社会生活に大きな影響がありますし、2回3回と躁状態を繰り返すと、家族との折り合いが悪くなったり信用を失い失職する原因になりかねません。そして躁状態やうつ状態を繰り返すごとに、ますます再発を起こしやすくする社会的状況の悪化を引き起こしてしまいます。

 つまり双極性障害の治療で最も大切なポイントは、躁状態、うつ状態が良くなったあとの再発予防をどうするのかという点につきます。幸い、再発予防に有効な薬物がありますので、それらを上手に使い続けることが重要です。家族は、迷惑を受ける躁状態には気付きやすい一方で、本人のうつ状態は軽く考えやすい傾向があります。本人は、うつ状態は強く訴える一方で、躁状態については気が付かない、認めたがらないことがよくあります。本人の客観的な状態を、できるだけ早く主治医や本人に伝え対応してゆくことも大切です。再発した時にどのような症状が最初に出てくるのかは人によって違いますが、自分の場合は再発のしるしとしてまずどのような変化が現れたのか、これまでの躁状態をよく振り返っておくことも必要です。

 Aさんの場合、「眠れなくなり、しかもそのことが苦にならない」という症状が躁状態の前触れであることに本人と家族が気付いてからは、定期的な外来受診の時に早めにそのことを主治医に告げ、薬物調整を行うことにより大きな波を防ぐことができ始めています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年02月17日 更新)

タグ: 精神疾患万成病院

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