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(5)円熟期を迎えた大動脈瘤ステントグラフト治療 心臓病センター榊原病院 吉鷹秀範上席副院長(心臓血管外科)

よしたか・ひでのり 高松高、香川医科大(現香川大医学部)卒、同大学院修了。1991〜92年の2年間、循環器内科医として約千例の心臓カテーテル検査、治療を経験。その後、大阪の国立循環器病センターで心臓血管外科医としてスタート。96年から心臓病センター榊原病院に勤め、2002年心臓病血管外科部長、05年から副院長、12年から上席副院長。

ハイブリッド室でのステントグラフト治療

現在使用されているステントグラフト

 大動脈瘤(りゅう)に対するステントグラフト(SG)治療が保険医療として2007年に認可されてからすでに7年経過しました。その間にSG自体がかなり進化し、さらにSGの種類も増えています。最近は、より安全で確実な治療ができるようになってきました。それに大きく寄与したのはIT技術の進歩です。具体的には(1)CT(コンピューター断層撮影)技術の進歩(2)ハイブリッド手術室の進化です。

 (1)超高速CTの出現と、コンピューターによる画像処理技術(3D化)の進歩により高解像度3DCT画像を瞬時に作ることができ、より緻密な術前診断がつくようになりました。

 (2)ハイブリッド手術室の進歩は特筆されます。ハイブリッド手術室とは、高性能血管撮影装置を常備した手術室のことをいいます。10年に初期型ハイブリッド手術室システムが発売されましたが、この3年間にかなりな進歩をとげており、3年前とは別物といっていいぐらいです。X線透視画像と3DCT画像のフュージョン(融合)による3Dナビゲーションシステム、高解像度大型モニターシステムなどにより従来では考えられなかった、ほとんど造影剤を使用しないSG治療も可能です。さらに2方向透視装置を用いた立体透視の導入により、手術時間の短縮も図れ、手術時間は30分以上短縮して1時間〜1時間半程度になりました。

 また、診断、治療技術の向上により、従来なら困難とされた大動脈瘤に対してもSG治療ができるようになってきました。一方、7年経過して、SG治療のトラブル(動脈瘤の再発)も多数発生し、その限界もある程度わかってきました。

 心臓病センター榊原病院においては07年からの7年間で約1600例の大動脈瘤治療を行ってきました。そのうちの約600例はSG治療、残りの約千例は開胸あるいは開腹での手術(オープン手術)治療となっています。全国でも屈指の治療経験数です。現在、SGとオープン手術の比は2対3程度となっています。

 最近になり、SGに対する世界中からの多数の学術論文やわれわれの約15年の経験から、SG治療に適する大動脈瘤の形態、治療効果、再発の有無がある程度わかってきました。

 確かにSG治療はうまくいけば体の負担はかなり小さく、従来のオープン手術を必要としないという点では画期的な技術です。しかし、たくさんの症例のSG治療を詳細に検討すると、腹部大動脈瘤のSG治療は再発率が20%前後有ること、弓部大動脈瘤に対するSG治療ではオープン手術より明らかに治療時の脳梗塞(合併症)発生率が高いことなど、意外とトラブルの発生率も高いことがわかってきました。SG治療に適さない患者さんにSG治療を行うと、トラブル発生率が上がり、治療によってかえってQOL(生活の質)を下げることもあります。そのような事実を知って個々の患者さんに最も適した治療方針を決めることは重要です。

 治療経験数や治療設備による施設間の治療成績の格差が存在するのも事実です。経験数の多い施設では医師だけでなく、看護師、技師など医療従事者の経験値も高く、より良い、高度なチーム医療が可能です。高度なSG治療には外科医、麻酔科医、看護師、臨床工学技士、放射線技師など6〜8名が1チームとして治療を行う必要があります。

 治療を自動車レースにたとえると、自動車技術の進化により自動車自体が高性能となりました。しかし、運転するのはドライバーであり、さらにそれを支えるサポートチームが必要です。いくら高性能車であってもそれを乗りこなす技術がないと高速でコーナーは曲がれません。高性能車(医療機器)と技術の高いドライバー(医師)とサポートチーム(看護師、技師など)がすべてそろっていないと自動車レースでいい成績は残せません。経験と知識とマンパワーが重要だと言えます。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年03月03日 更新)

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