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よく噛かんで健康長生き!! めざせ8020!! 笠岡第一病院 歯科医師 坂本隼一

坂本隼一歯科医師

 わが国は世界に先駆け65歳以上の人口が21%を超える超高齢社会を迎えました。それに伴い国民の「健康寿命の延伸」に対する意識が高まっています。近年、歯とお口の健康が、糖尿病をはじめ、誤嚥性(ごえんせい)肺炎や認知症など、体の健康に深く関わることが明らかとなり、歯とお口に対する健康意識も高まりを見せています。

 80歳になっても自分の歯が20本以上残っていれば噛むことに不自由なくおいしく食事をとることが出来ます。1989年より厚生省(現・厚生労働省)と日本歯科医師会は「8020運動(80歳になっても20本以上自分の歯を保とう)」を提唱してきました。2011年歯科疾患実態調査結果によると8020達成者の割合は38・3%に達し、年々増加することが予想されています。

 よく噛むことは食事をおいしくするだけでなく、食べ物を飲み込みやすくし、胃腸での消化・吸収を助けたりと、体の健康に役立つさまざまな効果があります。

 日本咀嚼(そしゃく)学会ではよく噛んで体にいい八つの効果を「ひ」「み」「こ」「の」「は」「が」「い」「ぜ」(卑弥呼(ひみこ)の歯がいーぜ)という標語にしてアイウエオ作文にまとめて紹介しています=図1参照。それぞれ「肥満の防止」「味覚の発達」「言葉の発音がはっきり」「脳の発達」「歯の病気を防ぐ」「がんを防ぐ」「胃腸の働きを促進する」「全身の体力向上と全力投球」を意味します。

 邪馬台国(やまたいこく)の卑弥呼がいた弥生時代は、調理技術も未発達で食事はかたいものが中心でした。そのため、人々は時間をかけよく噛んで食べていました。発掘された当時の顎の骨や歯をみると歯周病やむし歯が少ないことが報告されています。

 よく噛むことの効果としてまず唾液分泌の活性化があげられます。唾液の分泌量は健康な人で一日当たり1・5リットル〜2リットルと言われています。唾液にはデンプンを分解し体への吸収を助ける消化作用や味を感じさせたり、食塊を形成して飲み込みやすくする溶解・凝集作用があります。また歯の再石灰化作用やお口の中の汚れを洗い流す自浄作用、保湿・粘膜保護といった、むし歯や歯周病、口腔(こうくう)乾燥などの口腔疾患を防ぐ作用があります。さらには唾液中の酵素には抗菌作用や抗がん作用があり、これら唾液の働きがお口だけでなく体の健康にも影響を与えています=図2参照

 口の周りの筋肉をしっかり使ってよく噛むことで、言葉の発音が明瞭になり表情も豊かになります。また、よく噛むことで脳の血流量が増加し、満腹中枢が刺激され肥満を防ぐことが出来ます。肥満を防ぐことは生活習慣病の予防につながります。さらに記憶に関与する海馬も活性化されます。よく噛むことは子どもの知育を助け、高齢者は認知症の予防にも役立ちます。噛むことが心身のリラックス効果を引き出すことも報告されています。

 また、歯をしっかりと噛みしめると、体に力が入り、運動能力をあげる効果もあります。噛みしめる歯がなくなると体のバランス感覚の低下を招くともいわれています。しっかり噛める歯があることは、生きる活力となります。

 このように歯とお口の健康を良好に保つことで、日常生活を楽しくし、生涯を通じた生きがいのある健康な生活を送ること、つまりは「健康寿命の延伸」につながります。

 歯を失う原因の約7割が歯周病やむし歯です。歯を失うと噛む力が低下し、お口の環境が次々に悪化します。さらには体の健康にも支障をきたすようになります。それゆえ歯の喪失を早期に抑えることが必要となってくるわけです。

 80歳になっても自分の歯を20本以上保つことは、健康で長生きをするための大切な目標です。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年03月17日 更新)

タグ: 健康笠岡第一病院

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