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誤解や偏見がネックに 1日からHIV検査普及週間

和田教授(中央)の診察を受けるエイズ患者の男性。早く検査を受けていればとの悔いがある

 1日からHIV(エイズウイルス)検査普及週間が始まり、岡山県内でも保健所での夜間検査や県民への啓発活動が展開される。HIV治療の進歩で、最近は多くの感染者が早期発見によりウイルスの働きを抑えながら社会生活を送れるようになったが、病気への誤解や偏見から検査を受けない人も多い。県内のある男性患者の事例から予防啓発に向けた課題を探った。


 「もっと早く検査すれば良かったと今では後悔しています」

 倉敷市の会社員男性(45)は9年前、自宅で倒れ、搬送先の病院でエイズと診断された。重度の肺炎を起こし4カ月間の入院を余儀なくされた。

 HIV感染を疑ったのは発症の2、3年前からだ。下痢が止まらない、体がだるい、微熱が続く…。思い当たる節もあり、保健所に何度か電話したが、相手が出るとすぐ切ってしまっていた。

 病気と向き合うのが怖かった。「エイズ=死」という誤った先入観による恐怖や周囲から偏見の目で見られることへの不安が強かった。感染から発症までの潜伏期間が10年あると思い込み、時間的に余裕があると誤解していた。

 治療はその後順調に進み、今は朝晩の服薬と3カ月に1回の通院だけ。入院中にいったん辞めた会社にも再就職できた。

 それでも発症前に治療を始めていたら通院だけで済んだはずだ。「会社を辞めたり、親に病気を知られて心配をかけることもなかった」と男性は言う。

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 「今やエイズは死の病ではなく、慢性疾患と同じ。むしろ怖いのは放置して合併症を起こすことだ」

 男性の主治医の川崎医科大(倉敷市松島)血液内科学の和田秀穂教授はそう断言する。

 HIV治療は2000年以降大きく進歩。ウイルス量を減らす抗HIV薬は1日1錠飲むだけで良いものもある。同大病院の通院患者約80人の大半は仕事を辞めず元の社会生活を送れているという。

 ただ、エイズウイルスは血管に炎症を起こし、動脈硬化を進める。脳リンパ腫や子宮頸(けい)がんなど治療が困難な病気も引き起こすため、感染の早い段階で治療を始めることが重要だ。

 「早い段階で感染者のウイルスを減らせば、別の人に感染させるリスクも減らせる。予防面でも検査は重要」と和田教授は話す。

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 岡山県内で昨年新たに確認されたHIV感染者は16人だった一方、エイズを発症した状態で見つかった患者は3人。新規の感染者・患者計22人のうち患者が半数を占めた2010年以降、県は早期発見を重点課題とし、患者は減少傾向にある。

 検査件数も県が昨年4月からエイズ治療拠点病院の検査費用を一律千円にしたこともあり、昨年度は保健所と合わせ1435件と前年度より125件増加。ただ、その中でHIV感染が見つかったのは1件にとどまる。

 「課題は感染リスクの高い人への啓発」と県健康推進課。特にゲイやバイセクシュアル(両性愛)など男性同士で性行為する人(MSM)はコンドームを使わないことも多い。

 県ではゲイ当事者団体や、国のMSMの感染対策事業で主任研究員を務める市川誠一・名古屋市立大大学院教授らと連携し、効果的な啓発方法を探る。

 市川教授は「MSM当事者のネットワークを活用してゲイ向け情報誌で啓発してもらったり、保健所での検査を夕方や日曜にも増やすといった踏み込んだ取り組みを検討すべき」としている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年06月01日 更新)

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