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(8) パーキンソン病 岡山旭東病院 柏原健一神経内科部長 副作用も見極め、的確に治療薬を選択

かしはら・けんいち 朝日高、岡山大医学部卒。高知県立中央病院神経内科医員、国立療養所山陽荘病院(現国立病院機構山口宇部医療センター)神経科医長、岡山大病院神経内科講師などを経て、2001年、岡山旭東病院へ。11年2月から現職。パーキンソン病治療ガイドライン2011の作成委員を務める。神経内科専門医、脳卒中専門医、てんかん専門医。58歳。

 ―国内の患者数と、先生が診ている患者数は。

 柏原 国内の患者数は推計で15万人。高齢化で年々増えています。60代以上の方が大半ですが、40、50代も全体の10%ほどいます。私が現在診ているのは600人程度と思います。

 ―パーキンソン病の原因と症状は。

 柏原 最初に、便秘や立ちくらみ、起立性低血圧、次に寝言が大きい、うつ症状といった精神系や自律神経系の症状が出ることがしばしばです。その数年後に、手が震える、筋肉が硬くなる、転びやすくなるといったこの病気の特徴である運動障害が現れます。病気は緩やかに進行し、最終的には認知機能障害を生じることもあります。運動障害は、中枢神経伝達物質であるドーパミンの減少が原因です。

 ―どのように診断をしますか。

 柏原 患者さんを診察して、静止時に意思とは無関係に生じる手のふるえや、筋肉のこわばり、運動の遅さなど、特徴的な運動障害を調べます。それ以外にも、便秘や立ちくらみ、うつ症状、寝言などがあるかを確かめます。これらのうちいくつかの症状が重なれば、パーキンソン病が強く疑われます。最終的にMRI(磁気共鳴画像装置)で脳梗塞など他の障害がないことを確認し、確定診断します。パーキンソン病とよく似た症状の病気として、多系統萎縮症や進行性核上性麻痺(まひ)などがありますが、初期ならMRIで異常が見つからないので、鑑別が困難なことがあります。区別のために心臓の交感神経の機能や脳のドーパミン系の働きを調べることがあります。

 ―治療の方法は。

 柏原 まずは薬物治療です。基本薬は、脳内で不足するドーパミンを増やすレボドパと、ドーパミンの受容体を直接刺激するドーパミンアゴニストです。レボドパは効果が高く、副作用が少なく、薬価も安い。しかし、大量に長く(おおむね5年以上)続けると薬が効く時間が短くなり、体が勝手に動くジスキネジアという不随運動が起きやすいという欠点があります。ジスキネジアは年齢が若いほど起きやすいので、若い人にはドーパミンアゴニストだけ、もしくは2種類を組み合わせます。ドーパミンアゴニストは高価な上、食欲不振や眠気などの副作用が出やすく、車の運転に支障を来す恐れもあります。

 ―薬の選択、組み合わせが重要ですね。

 柏原 初期のころは、どちらの系統の薬を使っても効果はあまり変わりませんが、5~10年後は、どの薬をどう使うかによって患者のQOL(生活の質)に差が出ます。きちんと治療した場合の寿命は、一般的な平均寿命とほぼ同程度です。薬の作用で、たとえば、うつは良くなっても便秘がひどくなったり、認知症は改善しても運動症状が悪化することもあります。一部ですがギャンブル依存症に陥る人もいます。副作用を恐れてか、不十分な量の薬しか使われていない例もしばしば目にします。薬の選択、使用法はまさに医師の力量が問われるところです。患者さんの全身状態を診る幅広い視野と薬の知識が求められるのです。

 ―薬物治療で改善しない場合はどうしますか。

 柏原 薬の効き目の変化が激しかったり、副作用がひどい人は脳神経外科医に頼んで手術をすることがあります。脳の視床下核や淡蒼球内節(たんそうきゅうないせつ)と呼ばれる部分に電極を差し込み、胸に埋め込んだ装置から電流を流すものです。運動障害の改善に効果があります。ただ、先に挙げたドーパミン系刺激薬で効果がない人には効かないのが最大のネックです。

 ―リハビリ、運動も大切ですか。

 柏原 薬とともに治療の両輪といえます。散歩やラジオ体操、ゲートボール、デイサービスなどを利用し、少しでも体を動かすよう工夫してください。カラオケや井戸端会議も良いでしょう。言葉を話すことが脳の活性化につながるのです。大切なのは家族のサポート。病気に対する正しい知識を持ってもらえるよう、全国各地で講演をしています。昨年は、患者と家族向けに専門医仲間と「みんなで学ぶパーキンソン病」という本を書きました。

◇ 岡山旭東病院(岡山市中区倉田567の1、(電)086―276―3231)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年09月15日 更新)

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