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「がん患者に寄り添う」 松岡良明賞受賞の岡山済生会病院・三村院長代理

 みむら・てつしげ 1973年岡山大医学部卒、同大学院医学研究科修了。済生会西条病院(愛媛県西条市)を経て、国立がんセンターで研修。その後、岡山済生会総合病院に移り、外科医長、主任医長、診療部長など歴任し、2014年4月から現職。岡山大医学部臨床教授。岡山市北区。65歳。

 高度な技術が求められる「肝胆膵(すい)領域」の手術を積極的に手掛ける岡山済生会総合病院(岡山市北区伊福町)院長代理の三村哲重氏が、がん撲滅に貢献した個人、団体を顕彰する山陽新聞社会事業団の第19回「松岡良明賞」を受賞した。「これからも患者に寄り添い、がんと闘い続ける」と話す三村氏に治療にかける思いなどを聞いた。

 ―消化器外科の中でも、肝臓、胆道(胆管、胆のう)、膵臓を指す「肝胆膵」のがん手術は難しいとされる。

 「臓器周辺には血管が集まり、出血の危険性を伴う。術後の合併症も起こりやすく、死に至るケースも少なくない。常に緊張の連続だが、リスクを理解した上で手術に臨む患者のために、豊富な症例からどんな局面も乗り越えられるだけの技術は身に付けているつもりだ」

 ―肝臓がんの世界的権威・幕内雅敏氏(日本赤十字社医療センター院長)を師と仰ぐ。

 「外科医人生の中で彼の存在は非常に大きく、医師としての成長につながった。1988年、岡山済生会総合病院への赴任が決まり、何か新しいことをしたいと思った。当時、肝胆膵分野の外科手術は発展途上で、もっと進化すると思っていた。それを自分で実現させたいという思いもあり、肝臓がんの新しい術式を考案した幕内先生に師事し、国立がんセンター(東京、現国立がん研究センター)で約半年研修した。世界一と言われる医師と一緒に仕事ができたことを光栄に思う」

 ―膵臓がん手術において、高度な技術を要する血管の吻合(ふんごう)法を確立。合併症を減らし、化学療法を併用することで5年生存率を20%台から30%台に高めた。

 「膵臓は『沈黙の臓器』と表現されるように、初期症状がほとんどなく、大半は受診時には進行している。手術可能な患者も約3割と限られているのが現状だ。だからこそ、手術できる患者に対しては、安全性とがんを取り除く根治性の両面を実現させなければならないと思っている」

 ―医師として心掛けていることは。

 「患者の側に立つ医師でありたいという気持ちは一度もぶれたことがない。医療は患者が治療法に納得し、信頼関係があってこそ成り立つ。気持ちに寄り添い、一緒に治していこうという思いを大事にしている。技術を追い求めるだけの功名心で治療することが一番怖い。若い医師には『患者に手術をさせてもらっているということを忘れるな』と常々言っている」

 ―日本肝胆膵外科学会の高度技能指導医を務めるなど、後進の育成にも尽くしている。

 「手術技術は、手の動きや感覚に頼るところが大きい。研ぎ澄まされた感覚が失われると100パーセントの結果は出せない。鋭い感覚を保ち続けるには継続することこそが一番大切だ。私自身の手術の頻度は減ったが、指導している若手が徐々に育っているのがうれしい。肝胆膵領域の手術は、外科だけでなく、内科、放射線科などチーム医療で患者を支えている。チームワークが向上しているのも非常に頼もしい」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年09月22日 更新)

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