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(8)発達障害(下) 倉敷成人病センター小児科 主任部長 御牧信義

御牧信義主任部長

薬物療法の意味

 発達障害に対する対応のうち、お薬を使って治療する薬物療法を行うことがあります。発達障害を治療する専門医に対するアンケート調査(2011年)では73%の先生が興奮、衝動性、多動に対して抗精神薬などで薬物療法を行っているとの結果で、医療機関で薬物療法が必要と判断する場合が多いことを示しています。

 当院でも発達障害児に対してお薬を使うことはありますが、症状があったからすぐにお薬を使うことはありません。療育などを行い、家庭や学校を含めた周囲の人の意識・対応を変更するといった環境調整を十分に行ったうえで、お薬を使うことを検討します。その際、お薬を使うのは誰のためで、対象とする症状は何なのかをきちんと認識しておく必要があります。子どもの行動を抑制することだけが目的ではありません。

 お薬による治療は短時間で終了するとは限りませんので、症状がどのようになったら治療をやめるのかを意識しておくこともとても大切で、なんとなく長期にお薬を飲み続けることは避けなければなりません。この判断はお薬を出している医療機関できちんとしていますし、保護者の方には現在の症状、つまり家庭ではどうか、園・学校ではどうかなどについて、医療機関の先生にきちんとお伝えいただくと助かります。薬物療法はお母さま方と協力して実施することが大切です。

 子どもの場合、使用するお薬の量は少なくてよい場合が多く、大人の10分の1程度でよく効くことも稀(まれ)ではありません。その場合でも投与量・期間が過剰にならないよう、最低必要レベルを目指してお薬を調節します。睡眠障害に対してお薬を使うこともあります。

 薬物療法は症状の軽減だけが目的ではありません。例えば、お薬で多動がおさまると療育や教育の効果が出やすくなりますし、お薬開始前にはやろうとしても出来なかったことが出来るようになることもあり、本人に自信が芽生えます。このように自分に自信を持てること、そして自分自身を大切だと思う自尊感情へのサポートへとつなげていくことが大切です。

 この場合、多くの人がいろいろな角度から観察したこと、例えば園や学校の先生のご意見、本人が書いたテストやノートを実際にみせていただくと本人が気付いていないことが発見でき、本人の自信につながることもあります。

 お薬によっては効果が出るのに時間がかかる場合もあります。その場合でも多動などの症状に対する効果は今ひとつですが、表情はとてもよくなって子供らしくなり、生活がしやすくなりましたとのお母さんのお話をいただくこともありますので、細かいことを教えていただけると助かります。また「このお薬はぼくに合っている!」と答えるお子さんもいて、本人が薬効を実感できる場合は治療がスムーズに進みやすいです。

 いずれにしても薬に頼るだけでなく、薬効を利用して行動改善を図る一助とするという姿勢が大切です。

◇ 倉敷成人病センター((電)086―422―2111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年10月06日 更新)

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