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中高生にがん教育 岡山県が文科省モデル事業

がんの闘病体験と命の大切さを語る山邊さん=10月29日、倉敷市藤戸町天城、天城高校

 岡山県は本年度から中学・高校でのがん教育に取り組んでいる。文部科学省のモデル事業で、病気の怖さを伝え、予防につながる生活習慣を身に付けさせることを主眼に、患者へのより良い接し方なども学んでもらう。がんに対する現実感の薄い若い世代にどう教えるか、講師を務めるがん体験者や医師は対応を模索している。

 「一時は余命8カ月と宣告されました」。10月29日、天城高校(倉敷市藤戸町天城)で、山邊裕子さん(63)=岡山市=が1年生240人に語りかけた。

 山邊さんは2002年、急性骨髄性白血病になった。いったん回復したものの、06年に再発し、骨髄バンクでドナーが見つかり移植を受けた。再々発し、07年に臍帯血(さいたいけつ)移植によって助かった。09年、血液がん患者でつくる「岡山造血細胞移植患者会きぼう」を立ち上げ、骨髄バンクドナー登録の啓発に取り組んでいる。

 天城高ではそうした経緯を説明した上で、「ドナー、赤ちゃんとそのお母さんたちの善意に助けられ、生きています。見知らぬ人の命を考えることができる優しい人になってください」と訴えた。

予防に生活習慣

 がん教育の推進は、12年に閣議決定された「がん対策推進基本計画」に盛り込まれており、モデル事業は本年度、21道府県市の70校で実施。文科省は成果を見極めた上で、学習指導要領に盛り込むかどうか検討する。

 県内の実施校は天城高、西大寺高、玉野・宇野中、倉敷東中の4校。両中学では、山邊さんのほか、岡山大病院血液・腫瘍内科の西森久和医師が講師を務める。西大寺高では保健体育の教員が授業をした。

 がんは国民の2人に1人が罹(り)患し、3人に1人は死に至る。日本人の死因のトップでもある。授業では、誰もががんになる可能性があること、飲酒や喫煙、食事といった生活習慣への配慮が予防につながること、発症しても検診で早期発見できれば十分に治せることを教える。何より強調するのは命の尊さだ。

高くない関心

 ただ、一般の中高生にとって、がんは縁遠い。「リスクを軽減するため、きちんとした食生活や運動を」と呼び掛けても、将来にわたる生活での実践に結びつけることは簡単ではない。

 西森医師は「子どもたちに少しでも身近な問題と受け止めてもらうために、病気について父母らと必ず話し合ってもらうよう授業で呼び掛けている」と話す。

 家族をがんで亡くしたり闘病中という生徒への配慮も求められる。県に先立ち、12年度から独自に市立中・高校でがんの出前授業をしている岡山市では、がんで家族を亡くした生徒から「話を聞くのがつらかった」との声が寄せられ、市は、希望しない生徒には退席を認めるようにした。

 県は来年度以降も、文科省の事業を活用するなどしてがん教育を推進する考えだが、現状では学校側の関心は高くない。岡山市では、市内全校に協力を呼び掛けているが、実施は毎年2、3校にとどまる。

 西森医師、山邊さんは「多くの学校ががんの授業をしてほしい。各校の先生とも連携し、互いにより良い教え方を身に付けたい」と話している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年11月26日 更新)

タグ: がん岡山大学病院

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