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MICS、SG、TAVIで優れた実績 心臓病センター榊原病院(2)

笑顔で患者と接する坂口副院長

大動脈瘤ステントグラフト留置術の手術をする吉鷹上席副院長(右)

 心臓疾患の治療成績が全国でも上位にランクされる心臓病センター榊原病院(岡山市北区中井町)は、低侵襲治療においても、優れた実績を挙げている。

 まずは、心臓の代表的な疾患である弁膜症。心臓の弁が硬くなって狭くなる狭窄(きょうさく)症、弁が閉じなくなり血液が逆流する閉鎖不全症がある。榊原病院は、国内屈指の年間285例の弁膜症手術を実施。坂口太一副院長をメーンに、いずれも心臓血管外科部長の都津川敏範医師、田村健太郎医師が執刀する。

 治療は外科手術がメーン。外科手術には人工弁置換術、形成術の2通りがあり、より低侵襲で医師にはその分高度な技量が求められるのは形成術の方だ。

 榊原病院では、僧帽弁形成術の9割以上を胸を最小限にしか切らない小切開手術(MICS)で行う。僧帽弁形成術に占めるMICSの割合は先進国のドイツでは40%ほどだが、日本は全国平均で約15%しかない。このうち榊原病院が年間約60例と、国内総件数の4分の1程度を占めるという。

 従来の開胸術は胸の真ん中を縦に20センチほど切り、胸骨を切断する。これに対し、坂口副院長らが行うMICSは、乳首の斜め下のろっ骨の間を斜めに5~7センチほど切るだけで、骨を一切切らない。女性なら乳房に隠れるため、傷が見えない。

 従来の開胸術は胸骨を切ると骨がくっつくのに3カ月ほど掛かり、その間は車の運転ができないなど行動が制限されるが、小切開手術は10日程度入院すれば、その後は行動に制約がない。

 大動脈弁は形成術の長期予後が明らかになっていないため、ほとんどは人工弁置換術だが、やはりその4割はMICSで行う。

 坂口副院長は「合併症などに対するリスクマネジメントに万全を期す必要があり、人工心肺装置が正常に作動しているか、血流に異常がないかなど、医師、看護師、臨床工学技士らのチーム力が問われる治療だ」と強調する。

 年間約150例を手掛ける冠動脈バイパス手術(CABG)では、心臓を止めないオフポンプの手術が約7割を占める。オフポンプは人工心肺を使う場合より脳梗塞などの合併症のリスクが低いとされる。

 榊原病院ではCABGでも胸骨を切らない小切開手術(MICS―CABG)を全国に先駆けて行っている。病院によると、CABGに占めるMICSの割合は国内では0・3%程度だが、榊原病院は実に13%を占める。

  ■  □

 胸部と腹部の大血管手術では、大動脈瘤(りゅう)ステントグラフト(SG)留置術を行う。2007年のスタート以降、約800例を手掛けた。吉鷹秀範上席副院長が一手に治療を担う。

 SGとはバネ状の金属の付いた人工血管のこと。脚の付け根を3~4センチ切開しカテーテルを挿入してSGを大動脈内に広げて固定する。心臓の動きと血流を予測しながら狙った位置にピンポイントでSGを置かなくてはいけない。ミリ単位の誤差が脳梗塞などの重篤な合併症につながる。

 吉鷹上席副院長は、放射線医の所見を参考にCTを確認し、血管の状態をチェック。どこからメスを入れるか、どの種類のSGが最も効果があるかを入念に検討した上で手術に臨む。

 榊原病院は病院独自で手術の全症例をデータ化し、「こういう症状にはこの治療が良いとか、この治療は良くない」といったエビデンス(医学的裏付け)を集めている。

 その成果は既に表れている。一般的に腹部大動脈瘤のSGは再発率が約5%とされるが、周辺血管にコイルを詰め瘤への血流を防ぐと、再発率が下がることを突き止めたのだ。

 SGの入院期間は1週間程度が標準だが、榊原病院はわずか3日程度。治療成績をデータ化したことで予後の予測が付きやすく、安心して退院させることができるという。

 一方、大動脈弁狭窄(さく)症で、合併症があり手術が向かない患者には、経カテーテル大動脈弁治療(TAVI)を選択する。TAVIは2013年に保険適用された最先端治療。榊原病院は同年12月以降、約30例行った。

 脚の付け根や胸からカテーテルを挿入し狭くなった大動脈弁を風船で広げた後、人工弁を留置する。術中に心臓や動脈が破裂するリスクもあり、極めて高度な技術が求められる治療だが、吉鷹上席副院長は「SGの技術を応用できる。今後さらに広げていきたい」と話している。


◇心臓病センター榊原病院((電)086―225―7111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年05月04日 更新)

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