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(3)がん専門薬剤師の役割 倉敷成人病センター薬剤科副主任 松井裕典

松井裕典副主任

 一般的に薬剤師の印象とはどのようなものでしょう。「薬の袋詰めをする人」「白衣で薬の調合をする人」といった声をよく耳にします。確かに、薬剤師の仕事の基盤には調剤業務があります。調剤とは医師の処方箋に基づき医薬品を交付することであり、その過程では患者さんに安心して薬を使ってもらえるよう、薬学的な知見に基づいて服用量や服用時期、飲み合わせなどの確認を行っています。しかし、実際の現場では他にも抗がん剤の調製や服薬指導、病棟常駐業務、麻薬管理などチーム医療に不可欠な数多くの業務に従事しています。

 現在2人に1人が「がん」に罹(り)患する時代です。がん患者さんの増加に加え、高度化・複雑化するがん治療の中で、国は2010年の厚生労働省医政局長通知で“主治医だけではなく複数の専門性を持った医療職が協働してがん治療を進めていく「がんチーム医療」の必要性”を唱えています。また同時に、より高度な医療を提供するために各専門分野におけるスペシャリストの育成を求めています。そのがん領域における薬剤師が「がん専門薬剤師」です。現在、日本医療薬学会が認定するがん専門薬剤師は全国に437人おり、岡山県には4人が登録されています。倉敷成人病センター(以下、当院)にはうち2人が在籍しており、がん専門薬剤師制度の定義にある「高度な知識や技術、臨床経験を備える薬剤師として国民の医療・健康・福祉に貢献する」ことを目的に、日々のチーム医療に携わっています。

 当院はがん専門薬剤師の職能を活かしてがんチーム医療として全国に誇れる業務を行っています。その一つが08年9月に全国に先駆けて開設したサポート外来(薬剤師外来)です。がん専門薬剤師による円滑で質の高いがんチーム医療の実現を目的として、がん患者さんを対象に主治医の診察前に30分程度の介入を行っています。副作用マネジメントや支持療法の提案、疼(とう)痛管理だけでなく、患者さんの状態から治療の適切性を見極め、治療の施行可否から次治療検討までさまざまな提案を行っています。

 二つ目が14年4月から実施しているCDTM(Collaborative Drug Therapy Management=共同薬物治療管理)です。これは医師と薬剤師が事前協議を設けて治療プロトコール(計画書)を作成し、それに準じた範囲の薬物治療を薬剤師が代理で行うものです。契約医師の代行権限を利用した薬剤師による規定薬剤の処方をはじめとして、治療に必要な採血検査や尿検査のオーダー、抗がん剤の用量設定などを行っています。実際、米国では1970年代後半から一部の州で実施されており、医療の質の向上や医師の負担軽減など顕著な成果が得られています。医療の質の向上、すなわち患者満足度の向上に貢献し得る新業務です。

 安全で質の高いチーム医療を提供するためにはスキルミックス(多職種協働)が必須です。その中で、がん専門薬剤師は持てる知識や技術を駆使し、患者さんへ貢献することを念頭に、医師の業務負担の軽減や多職種連携の中心的存在として活躍できる立場にあるのではないかと考えます。そして患者さんにとっては、何でも気軽に相談でき問題を一緒に解決していける、そんな存在でありたいと思っています。

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倉敷成人病センター((電)086―422―2111)

 まつい・ゆうすけ 総社南高、就実大薬学部卒。2007年から倉敷成人病センター勤務。14年に日本医療薬学会がん専門薬剤師の資格を取得。糖尿病療養指導士。倉敷中央高で薬理学臨時講師を兼任。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年07月20日 更新)

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