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(1)食道がん診療の現状 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科消化器外科学准教授 岡山大病院消化管外科副診療科長 白川靖博

白川靖博准教授

 最近、有名な芸能人の方が発症したり、亡くなったりということがあり、注目されることが多くなった食道がんですが、決してそれほど多いがんというわけではなく、わが国では男性で7番目、女性で14番目です。年間約1万8000人が発症しており、男女比は4対1で男性(特に高齢者)に多いがんです。

 食道は喉から胃の間をつなぐホースのような臓器であり、頚部(けいぶ)食道、胸部食道、腹部食道の三つの領域に分類されます。食道がんの多くは胸部食道に発生しますが、その中でも心臓の裏の胸部中部のがんが最も高頻度です。

 わが国で発生する食道がんのほとんどは口や喉にできるがんと同じ扁平上皮がんです。アルコールや喫煙、熱い食事等が発がんの原因であることが知られていますが、これらの中でもアルコールが体内で分解される際に発生するアセトアルデヒドが発がんに強く関わっています。アセトアルデヒドは二日酔いやお酒を飲んだ時に顔が赤くなる原因物質でもあります。

 アセトアルデヒドは主に肝臓でアルデヒド脱水素酵素2型(ALDH2)という酵素でさらに酢酸に分解されますが、われわれ日本人の40%はこのALDH2の活性が半分しかないことが知られています。このような人はお酒を飲むとすぐ赤くなり、若い時に飲み始めたころはお酒に弱いのですが、慣れるとだんだん飲めるようになります。しかしアセトアルデヒドが体内に残りやすい体質ですので、長年お酒を飲み続けていると食道がんにかかるリスクが何十倍も高くなるわけです。

 早い段階の食道がんは、ほとんど症状がありません。さらに平べったい病変が多いので検診のバリウム検査ではなかなか見つかりません。というわけで、赤くなるけれどお酒をよく飲まれる中高年の男性のような食道がんのハイリスクの人には、ぜひ内視鏡検査をお勧めしたいところです。特に近年は内視鏡診断技術が著明に進歩しており、内視鏡的切除により根治可能な、粘膜内にとどまった早期食道がん(ステージ0)も見つかるようになってきています。

 しかし、食道がんは粘膜の下にある程度入っただけでリンパ節へ転移しやすいという特徴もあります。さらに転移診断についても近年はPET―CT等が導入されており、診断精度はより高まってきています。リンパ節転移の可能性がある段階(ステージI~III)になってきますと、標準的な根治療法は手術となります。しかし、食道がんは早い段階から原発から少し離れた場所のリンパ節にも転移しやすいことが知られていますので、広い範囲のリンパ節郭清(切除)が必要になります。このため頚胸腹部におよぶ手術操作が行われ、手術の侵襲は大きく、合併症も起こりやすいわけです。

 そこで最近は、食道がん手術に対しても手術の侵襲を下げる目的で鏡視下手術を導入する施設が増えています。また合併症軽減のため多職種の医療スタッフからなるチーム医療による周術期管理の重要性も注目されてきています。

 なお、進行がん(ステージII~III)に対しては手術の根治性をより高めるために、術前の抗がん剤治療(状況によっては放射線も併用)を行うことが推奨されていますが、抗がん剤による副作用対策についても薬剤師を中心としたチーム医療が大切です。

 そこで、次回からは手術を中心とした食道がん診療の実際について、最新の治療も含め紹介させていただきます。

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 しらかわ・やすひろ 福岡県立筑紫丘高、岡山大医学部卒。医療法人寺田病院、福山市民病院、恵佑会札幌病院、岡山大病院助教、講師などを経て2014年から現職。日本外科学会指導医・専門医、日本消化器外科学会指導医・専門医、日本消化器内視鏡学会指導医・専門医、日本食道学会食道外科専門医、日本内視鏡外科学会技術認定医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年07月20日 更新)

タグ: 岡山大学病院

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