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(3)チームで乗り切る食道がん手術 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科消化器外科学准教授 岡山大病院消化管外科副診療科長 白川靖博

 医療の分野も細分化が進んでおり、病院の中ではさまざまな専門職医療スタッフが働いています。かつては主治医の依頼を受けた各部門が個々に患者さんにアプローチする形態が多く、職種間の横の連携というのもあまり無く、専門職が持っているメリットを患者さんのために生かし切れているとはいえない状況でした。

 最近、チーム医療という言葉を一般の方も耳にされたことがあるかと思います。患者さんの情報をチーム内の専門職間で共有し、互いに連携・補完しながら患者さんの管理、ケアを行っていくと、いろいろな良い効果があるのです。

 特に手術前後の周術期においては、チーム医療導入により術後合併症減少、手術後の入院期間短縮、さらに外科医の負担軽減が期待されていますが、特に食道がん手術のような大きな手術ほど効果は大きいようです。

 岡山大学病院においては、多職種の医療スタッフが組織横断的に情報を共有しながら周術期管理を行うチームである周術期管理センター(Perioperative management center=PERIO)が2008年に設立され、09年には食道がん手術にも導入されました。

 PERIOでは、外科医、麻酔科医といった手術に関わる医師以外に、看護師、理学療法士、臨床工学技士、管理栄養士、薬剤師、歯科医、歯科衛生士、歯科技工士のメンバーが、患者さんを中心に寄り添うように存在しています。

 に示した業務を手術が決定した段階から自動的にスタートさせ、術前術後を通して連携を継続しているのです。快適で安全・安心な周術期環境を効率的に提供することが可能となっており、患者さんの満足度は上昇し、主治医である外科医の負担も軽減し、最も重要な業務である手術に対し、より集中できるようになりました。

 特に、食道がん術後に最も頻度が高く、時に命にも関わる合併症である肺炎予防のためには、PERIO理学療法士による術前リハビリとPERIO歯科による術前の口腔(くう)ケア(特に手術前日の口の中の大掃除=プラークフリー)が重要であり、事実、最近の術後肺炎の発生率は明らかに低下しています。

 また、PERIO看護師が行っている患者さんの手術に向けた意思決定の支援も重要です。実際、主治医からの説明を聞いただけでは内容を良く理解できていない患者さんが少なくないのです。とにかく“先生にお任せ”といった感じのことも、かつては多かったように思います。しかし、このような状況で食道がん手術のような大きな手術に臨むと、術前予想していなかった状況のためパニックに陥り、リハビリも進まず、せん妄(一時的にぼけて暴れたりすること)やそれに引き続く合併症を引き起こすこともしばしば見受けられました。

 PERIO看護師はまず、患者さんの手術に関する理解度をチェックした上で、足りない部分を丁寧に動画やパンフレットを用いて説明しています。自分が受ける手術の内容を十分理解し、それに向けて患者さん自身の体と心の準備を支援しているのです。言い換えれば、手術を乗り切っていく主役は患者さん本人であり、その患者さんをサポートしてくれるチームが常に寄り添っているということを理解してもらうようにしているのです。

 PERIOの取り組みは食道がんの周術期管理におけるチーム医療のモデルケースとして、全国からも注目されています。また、岡山大学病院における食道がん外科診療の実績も、前回お話しました鏡視下手術とチーム医療の融合の賜物(たまもの)であると考えています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年09月07日 更新)

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