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(6)胃がんに対する腹腔鏡下手術 津山中央病院外科部長 松村年久

【写真1】

【写真2】

【写真3】3D内視鏡使用時のイメージ図=オリンパス提供

松村年久外科部長

 現在、日本人の死因の第1位は悪性新生物であり、そのうちで胃がんは男性で第2位、女性で第3位と上位を占めています。最近は早期胃がんの一部では内視鏡的切除で治療が完結しますが、それ以外では手術治療が中心になります。

 津山中央病院外科は以前から岡山県北地域でのがん手術の中心的な役割を担ってきましたが、胃がんに対する腹腔(ふくくう)鏡下手術については導入が遅れていた状況でした。しかし、2012年4月から岡山大学病院消化管外科の協力を得て、腹腔鏡下手術を開始しました(写真1)。現在までのところ125症例に対して施行しており、年々着実に症例数が増えています。

▼腹腔鏡下手術の利点

 (1)従来の開腹手術では上腹部を約20センチ切開していましたが、それに比べると創が小さく美容的な利点があります(写真2)。

 (2)術後疼痛(とうつう)が軽減されることにより早期離床に役立ち、また開腹手術より腹壁の破壊が少ないため回復が早い利点があります。

 (3)腹腔内の臓器を拡大して観察できるのでより精密な手術が可能です。

▼腹腔鏡下手術の適応      

 以上のように多くの利点がある腹腔鏡下手術ですが、すべての胃がん症例に適応できるわけではありません。胃がん治療ガイドラインでは、ステージI(早期胃がん及び早期より少しだけ進んだ進行胃がん)に対する幽門側胃切除術(幽門=胃の出口を含めて胃の下部3分の2を切除)について、腹腔鏡下手術は選択肢となりうると記されています。当院でも、基本的にはこれに当てはまる症例を中心に腹腔鏡下手術を施行しています。

 また、早期胃がんに対する腹腔鏡下胃全摘術や腹腔鏡下噴門側胃切除術(噴門=胃の入口を含めて胃の上部を切除)については慎重な姿勢を取っていますが、技術的には十分可能であると考えています。患者さんに十分な説明を行った上で希望があれば施行しています。

▼3D腹腔鏡   

 15年7月より、3D腹腔鏡を導入しました。これはビデオスコープの先端に2枚のCCD(電荷結合素子)が搭載されていて、右目用と左目用の映像を取り込み、3D眼鏡をかけてモニターを観察し、手術を行うものです(写真3)。奥行きのある3D映像で、対象臓器の立体的な構造が把握しやすくなりました。従来の2D腹腔鏡でも腹腔内での縫合や結紮(けっさつ)を行っていましたが、3D腹腔鏡ではその精度向上と時間短縮が期待できます。

▼おわりに    

 胃がんに限らず他臓器のがん治療でも、手術治療だけで終わるわけではありません。標準的な手術を行うことは当然ですが、きちんと日常生活が送れるよう回復を目指すことや、以後の再発チェックの検査を継続するなど、きめ細やかな対応が必要です。また根治不能ながん患者さんに対しては、抗がん剤治療や緩和医療などが行えるような支援体制をとっています。住民がきちんとしたがん治療をこの地域内で受けられるように、日々研鑽(けんさん)を積み、診療に励んでいます。

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 津山中央病院(0868ー21―8111)

 まつむら・としひさ 岡山芳泉高、岡山大医学部卒。同医学部第一外科、岡山済生会総合病院、尾道市民病院などを経て、2004年から津山中央病院勤務。日本外科学会認定医・専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年10月19日 更新)

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