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(8)産婦人科腹腔鏡手術 津山中央病院副院長 河原義文

図1

図2 間質部妊娠(★は異所性妊娠部位)

図3 卵巣腫瘍(腫瘍核出中)

図4

河原義文副院長

 産婦人科・外科・泌尿器科を中心に腹腔(ふくくう)鏡手術が普及してきています。産科領域では異所性妊娠(子宮外妊娠)、婦人科領域では卵巣良性腫瘍、子宮筋腫、子宮内膜症を中心に腹腔鏡手術が行われています。臍(さい)部よりスコープを、側腹部より鉗子(かんし)を挿入し、腹腔内操作を行います。

 腹腔鏡手術の長所は(1)術後の疼(とう)痛が少なく入院期間が短く社会復帰が早い(2)拡大した視野で手術操作ができる(3)術後の癒着が少ない(4)傷が小さい―などです。一方、短所は(1)特殊な手術機器が必要(2)気腹(腹腔内に炭酸ガスを注入)が必要なため適さない方も存在する(3)手術操作に制限がある(4)手術時間の延長―などがあります。

 腹腔鏡手術が発展してきた要因の一つに、専用機器の開発があります。より安全に使用できるトラカール(機器を挿入する筒)、超音波凝固装置、ベッセルシーリングシステム(血管を電気的に凝固させる機器)、高性能CCDカメラ、3D内視鏡システム、ハイビジョンシステムなどハイテク機器が開発され、普及してきております。また近年、ロボット手術も注目を浴びております。

▼異所性妊娠(子宮外妊娠) 

 子宮腔以外で妊娠する病気で、緊急手術になる場合が多い代表的産科救急疾患です。

 近年、異所性妊娠に対する手術は腹腔鏡下に卵管切除あるいは卵管線状切開(卵管温存)を施行する場合が多くなっております。緊急手術となっても、一般的には夜間休日などの理由でスタッフ確保が困難なため開腹手術をせざるを得ない場合もあります。

 腹腔鏡手術には専用の機器、知識経験のあるスタッフが必要であり、津山中央病院では14年前から、24時間緊急腹腔鏡手術ができる体制を築いております=図1。最近4年間の異所性妊娠は100%腹腔鏡手術を施行しております。図2は異所性妊娠でもまれな間質部妊娠で、破裂すると大量出血が予想される疾患です。腹腔鏡手術で治癒しております。

▼卵巣良性腫瘍 

 卵巣良性腫瘍に対しては、卵巣切除あるいは卵巣腫瘍核出術(腫瘍のみ切除)を施行しますが、腹腔鏡手術を施行する場合が多く、当院でも最近4年間では92・6%の方は腹腔鏡手術を希望され、施行しております。高齢者にも、より侵襲の少ない腹腔鏡手術を施行する機会が増えてきております。図3は卵巣腫瘍核出術の術中写真です。

▼子宮内膜症・子宮筋腫 

 子宮内膜症病変の除去あるいは癒着剥離にも、腹腔鏡を使用する機会が増えております。スコープを近づけると、病変部がかなり拡大されて見えるため、細かい病変の焼灼(しょうしゃく)、癒着剥離には有効です。

 子宮筋腫に対しても、子宮全摘術あるいは子宮筋腫核出術を行いますが、腹腔鏡を使用する症例が増えております。ただ、適応症例を十分検討して選ぶ必要があり、大きさや癒着の程度によっては開腹手術を勧める場合も多いです。図4は8センチの子宮筋腫(★印)のMRI画像です。

▼おわりに 

 腹腔鏡手術は今後も広まっていくと考えられます。術中、周囲臓器(腸管、尿管、膀胱(ぼうこう)、大血管)の損傷には十分配慮する必要があります。手術に向けてしっかり準備し、安全に予定した手術内容を終えることが、当然ながら最も重要と考えております。



 津山中央病院(0868―21―8111)

 かわはら・よしふみ 岡山大安寺高、山形大医学部卒。岡山大産婦人科、住友別子病院、国立福山病院、公立雲南総合病院などを経て1994年から津山中央病院勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医・指導医、日本周産期・新生児学会暫定指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年12月07日 更新)

タグ: がん女性お産津山中央病院

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