文字 

(2)乳がん検診について 岡山大学病院乳腺・内分泌外科講師 平成人

平成人講師

 日本では乳がんが年々増加し、女性が罹患(りかん)するがんの第1位です。年間に乳がんに罹患する人数は、1975年は人口10万人あたり20人でしたが、2011年は124人と、この35年間で約6倍に増加しており、女性の12人に1人が乳がんに罹患します(図1)。

 乳がん検診の目的は、早期発見と早期治療により死亡率を減少させることで、検診の方法には「自己検診」「視触診による検診」「マンモグラフィー検診」「超音波検診」などがあります。厚生労働省の調査班報告書では、40~74歳ではマンモグラフィー単独検診を、あるいは40~64歳ではマンモグラフィーと視触診の併用をすすめています。

自己検診について 

 乳がんは自分で発見できる数少ないがんの一つであり、定期的な自己検診を心がけましょう。自己検診のポイントは、「みる」「さわる」「つまむ」です。

 【みる】鏡に向かい両腕を自然に下げたり上げたりして乳房の変形や左右差がないかをチェックします(図2a)。

 【さわる】立った状態、寝た状態で4本の指の腹で軽く押さえながら乳房を円を描くようにくまなく触り、しこりがないかをチェックします(図2b)。

 【つまむ】最後に乳頭をかるくつまみ、乳頭からの分泌液がないかをチェックします。血液の混じった分泌液(通常は褐色)を認めた場合は、受診が必要です。

視触診による検診について     

 医師による乳房の視診と触診を行います。安くて簡便であるため、日本では1987(昭和62)年から導入されましたが、検診精度が医師の技量に左右されるなどの問題があります。また、マンモグラフィーの導入により手で触れないがんの診断ができるようになりましたので、マンモグラフィー検診との併用をおすすめします。

マンモグラフィー検診について   

 マンモグラフィーは板と板の間に乳房を挟んで圧迫し、薄く伸ばした状態でレントゲン撮影する方法です。手で触れない段階で乳がんが発見される場合があり、40歳以上の女性では死亡率が低下することが示されています。しかし40歳未満の女性に対する効果は明らかでありません。

 欠点は、検査に多少の痛みを伴うこと(個人差があります)、少ないながら被曝(ばく)するという点です。マンモグラフィーの被曝による発がんリスクの増加は極めて少なく、死亡率低下効果が示されている40歳以上であれば、マンモグラフィーによる利点が欠点を大幅に上回ると考えられています。

 しかし、全ての乳がんがマンモグラフィーで発見できるわけではありません。特に乳腺組織の発達している若い女性では、乳がんの発見が難しくなります。また、マンモグラフィー検診で精密検査が必要と判定された場合でも、実際に乳がんが発見されるのは50人に1人程度です。

超音波検診について 

 超音波プローブ(探触子)を乳房に直接あてて、乳房内を観察する方法です。マンモグラフィーのような痛みや被曝がなく、乳腺組織の発達した女性でも、乳がんが発見できる場合があります。

 最近日本で行われた研究から、40歳代の女性では、マンモグラフィーに追加して超音波検診を行うことで、より多くの乳がんが発見できることが報告されました。一方、本当はがんではないのに精密検査を受けなければいけない危険性も増加します。超音波検診による死亡率の低下効果は、現在のところ不明です。

その他の検診について 

 その他の検診方法として、造影剤を用いたMRI(核磁気共鳴画像法 magnetic resonance imaging)があります。

 造影MRIは乳がんの検出率が最も高い検査方法ですが、造影剤の注射が必要なこと、高額なこと、時間と手間がかかることから一般検診には不向きです。このため造影MRIは乳がんの危険性が極めて高い女性(遺伝性乳がん、頻回のエックス線検査や放射線療法など小児期に胸部への被曝歴のある女性)にのみ行われます。

 たいら・なると 岡山・関西高、山口大医学部卒。四国がんセンターを経て2008年から岡山大病院勤務。医学博士。日本乳癌学会乳腺専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年12月21日 更新)

タグ: がん女性岡山大学病院

ページトップへ

ページトップへ