文字 

肝胆膵のがん治療について 岡山済生会総合病院2氏に聞く

仁熊健文肝胆膵外科部長・診療部長

肝機能正確に予測して切除へ 仁熊健文肝胆膵外科部長・診療部長

 ―主に肝臓がんについてうかがいたい。まず手術の基本を。

 右葉、左葉の言い方が知られる肝臓は、医学的には4区域、さらに細かくは8亜区域に分けられる。肝がんは同一の区域や亜区域内で転移しやすく、初発のがんでは区域や亜区域ごと切除するのが基本だ。時には葉切除も行う。これらを系統的切除という。残す部分の肝機能(予備力)をできるだけ正確に予測し、切除範囲を決めることが重要。再発や肝機能不良の場合は部分切除も行う。

 ―区域の境目の把握が重要に思えるが。

 最近は医療機器が進歩し、楽になった。肝臓には肝動脈、門脈、肝静脈と3種の血管があり、また胆管が複雑に走っている。事前に撮ったCT画像を再構成した3Dシミュレーション画像により、血管や胆管の様子、区域の境目などを相当程度把握できる。その上で術中、ブローブを当て、エコー(超音波)で血管などの実際の様子を確認しながら施術していく。

 ―具体的な切除のやり方は。

 区域の境界は肝静脈にほぼ沿っており、肝静脈からは多くの枝が出ている。切除する側の枝を一つ一つ結紮(けっさつ)し、その上で対象区域を切除する。一つの境界につき結紮を数十カ所行う。結紮するのは胆管も同様だ。

 ―細かい手技が要求されるが、肝臓ではやはり出血が怖い?

 大出血を避けなければ。血液は肝動脈、門脈から入り肝静脈から出ていく。肝動脈、門脈は15分程度クランプしてその間に施術し、5分ほど休んでもう一度というやり方ができる。しかし、肝静脈はクランプすると肝臓がうっ血を起こす。麻酔医と協力するなどし、静脈圧を下げることを中心に血流をコントロールする。様子を見ながら慎重に進める必要がある。

 ―肝がん手術で心配される合併症は。

 肝臓は再生力の強い臓器だが、切りすぎて予備力が落ちすぎてはいけない。そうなると肝不全だ。その意味でも、事前のシミュレーションで十分検討することが大切だ。

 ―近年は腹腔(ふくくう)鏡手術にも力を入れている。

 腹腔鏡下手術はおなかに4、5カ所穴を開け、内視鏡や手術器具を入れる。通常の手術より侵襲が少ないことのほか、術中、臓器を剥離(動かす)しないですむ利点も大きい。それに、おなかを膨らませるために入れる炭酸ガスの圧により、静脈からの出血が減少するというメリットもある。

 ―外科手術以外の治療法について教えてほしい。

 がんの大きさや数、肝臓の予備力によっては体外から電極針を刺し、がんを焼くラジオ波焼灼(しょうしゃく)術(RFA)が選択される。肝動脈塞栓術はがんに栄養を送る血管を封鎖し、がんを兵糧攻めにする治療法。手術やRFAができない進行がんに多く用いられ、抗がん剤を一緒に送り込む肝動脈化学塞栓療法もある。感受性が鈍いため放射線療法は肝がんにはあまり適さない。

 ―ところで、肝がんの原因は。

 今のところC、B型肝炎に起因する症例が多い。しかし感染防止策が進み、ウイルス性肝炎由来の肝がんは減っていくと思う。今後はアルコール性肝炎、また脂肪肝から脂肪性肝炎になり、肝がんというケースが増えるのでは。肝臓は、適切に切除すればほぼ元に近い大きさまで再生する。強い臓器だと思う。それだけに生活習慣を改め、脂肪肝には気をつけてほしい。

 ―医療技術面で今後の期待は。

 術中ナビゲーションというか、手術中に肝臓が透けて見える―そんな感じで手術できるようになれば…。経験豊富な名医が頑張っても、こなせる手術数はしれている。多くの医師が、より安全、確実に肝がんを治せる時代がくればうれしい。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年02月01日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ