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(6)乳がんと遺伝について 岡山大学病院 乳腺・内分泌外科講師 平成人

家族性乳がん相談外来でのカウンセリング

平成人講師

 ▼乳がんは遺伝するのか?

 乳がんの多くは遺伝しませんが、5~10%は遺伝的な要因がはっきりしていて、親から子に遺伝する「遺伝性のがん」と言われています。

 遺伝性乳がんの原因として、大半を占めるのがBRCA1遺伝子、BRCA2遺伝子の異常です。この2種類の遺伝子は男女関係なく誰でも持っている遺伝子ですが、生まれつきこの遺伝子のどちらかに変化(病的変異)があると、乳がんになりやすいことが分かっています。またこれらの遺伝子に生まれつき変化があると、乳がんだけではなく、卵巣がんのリスクも高くなるため「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」、または英語の疾患名を省略して「HBOC」と呼ばれています。(HBOC=Hereditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome)

 ▼「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」の特徴は?

 遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の外観上の特徴はありません。発見のきっかけの多くは、血縁のある家系内に、乳がんや卵巣がんを発症した方が多いことです。

 一般の日本人女性が生涯のうちに乳がんを発症するリスクは8%、卵巣がんは1%と言われていますが、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群では、70歳までに乳がんを発症するリスクが49~57%、卵巣がんを発症するリスクが18~40%と極めて高くなります(グラフ)。また、「若くして乳がんになる」、「乳がんを多発する(対側乳がん・同側乳がん)」などの特徴があります。

 変化のある遺伝子は、親から子へと、性別に関係なく(母から娘だけでなく、父からも、あるいは息子へも)、50%の確率で受け継がれます。また、変化のある遺伝子を持っている人すべてが乳がんや卵巣がんになるわけではなく、遺伝性乳がん・卵巣がんであっても、血縁者に乳がんや卵巣がんがみられない場合もあります。

 ▼「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」は治るの?

 現代の医療では、変化のある遺伝子を正常に戻すことはできません。ですので、遺伝性乳がん・卵巣がんでは予防と早期発見がとても大切です。

 通常の乳がん検診は40歳以後に受けることが推奨されていますが、遺伝性乳がん・卵巣がんでは若い世代で乳がんを発症することがあるので、20代から定期的に検診を受けることが勧められています。また、一般的に行われているマンモグラフィーに加えて、乳がんの検出感度が高い乳房MRI(核磁気共鳴画像法)を用いた乳がん検診が勧められています。しかし、卵巣がんの検診方法は確立されておらず、経腟(けいちつ)超音波や血液中の腫瘍マーカー測定が有効であるかどうか、臨床研究での検討が進行中です。

 最も確実な予防方法は、乳がんや卵巣がんを発症する前に、乳房や卵管・卵巣を外科的に切除する「リスク低減手術」です。数年前に米国の女優さんが選択されたことで話題になりましたが、彼女も述べているように、その決断には遺伝性乳がん・卵巣がん症候群、並びにリスク低減手術の良い点や悪い点に関する十分な知識と理解が必要です。

 ▼「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」の検査方法と遺伝カウンセリング

 遺伝性乳がん・卵巣がん症候群であるかどうかは、数ミリリットルの血液を採取し、血液中に含まれる細胞の遺伝子を調べることで知ることができます(現在のところ保険適応でないため自費になります)。

 遺伝子検査は、遺伝性の病気や遺伝子検査の意義について、専門家と十分に話し合った(遺伝カウンセリング)後に、本人の自由意志に基づき実施されます。

 次の一つでも当てはまる場合は、遺伝性乳がん・卵巣がんを疑い、詳しいリスク評価を受けることが勧められています(表)

 岡山大学病院の家族性乳がん相談外来では、遺伝性乳がん・卵巣がんに関する相談や遺伝子検査を実施しています(完全予約制、保険適応外でカウンセリング料が発生します)。問い合わせ先は岡山大学病院、乳腺外科外来(086―235―6978、受付時間は平日の午前9時~午後5時)。


 たいら・なると 岡山・関西高、山口大医学部卒。四国がんセンターを経て2008年から岡山大病院勤務。医学博士。日本乳癌学会乳腺専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年03月21日 更新)

タグ: がん女性岡山大学病院

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