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滞在型医療構築目指す 津山中央病院・藤木院長に聞く

地域医療の向上に向け意欲を語る藤木院長

「がん陽子線治療センター」内の陽子線照射室。奥側の男性が指さす場所から陽子線が照射される

 先進医療施設として国の認可が得られ、中四国初の「がん陽子線治療センター」が本格始動した。60~80代の男女10人が治療を開始し、10~80代の男女13人から診療の予約(9日現在)を受けており、ニーズの高さを実感している。初年度目標数の100人に向け、順調な滑り出しだ。

 <津山中央病院(津山市川崎)が3月、院内に整備した同センター。国の認可により7月1日から陽子線治療に関する診察、検査費などへの医療保険適用が始まった。外科手術や化学療法に比べ、放射線治療は臓器が温存でき、手術不能な部位でも治療できる。中でも陽子線は体への負担が少ない。陽子線照射は回数にかかわらず一律288万円>

 陽子線治療は水素の原子核を光速の70%にまで加速し、がん病巣を破壊する。深さや大きさ、形に合わせてエネルギーの最大量(ブラッグピーク)を調節し、照射できるのが利点だ。一定の深さで止まるので、病巣を通過して周囲の正常な臓器にも影響を及ぼすエックス線と異なり、副作用が少ない。体にメスを入れないので、治療後の生活に支障を来さない。1日1回、週3~5回程度の照射で、通院しながら治療することもできる。

 <国内では兵庫県立粒子線医療センター、国立がん研究センター東病院(千葉県)などに次ぐ11カ所目の施設。さまざまな診療科目を設ける総合病院としては西日本初で、岡山大病院と連携しているのも全国的に珍しい>

 日本人の2人に1人ががんにかかる時代。がんと闘う患者を手助けしたい。そのための病院が中四国に一つあってもいいと思い、整備を決めた。総合病院には、幅広いジャンルの専門医が多く常駐していて、糖尿病や心臓病といった合併症で入院が必要な場合も、並行して治療を行える。

 全国的に放射線科医は不足している。陽子線治療に精通したスタッフの確保が難しい中、岡山大と協力する意義は大きい。国内だけで240以上の関連病院を抱えており、県内外から大勢の患者が津山を訪れるだろう。

 <国内の同様の治療施設では、県外から7割前後の患者が訪れるという。日本の医療水準は世界屈指で、海外の外国人も見込める>

 津山商工会議所や市などと連携しながら「滞在型医療ツーリズム」構築を目指している。陽子線治療が特に効果的な前立腺がんの場合、原則として通院となるため、治療にかかる2カ月前後は、地元の宿泊施設を利用し、観光に費やしてもらおうという構想だ。

 将来の年間患者数は250人を想定しているが、1割はインバウンド(海外からの誘客)を期待したい。まずは中国、台湾、韓国を視野に入れ、患者を紹介してもらう医療コーディネーターと契約を締結した。中国の医師免許を持った人材も来年から常勤として採用する。家族も帯同し、ホテルに泊まりながらゴルフを楽しんだり、レンタカーで名所を訪ねてもらったりすれば、地方創生にも貢献できる。

 <津山市出身の院長として地元への思い入れも強い。県北の中核病院としての基盤整備にも着手する>

 2017年8月の完成を目標に、185床の新病棟を建設している。救急専門医が常時2人待機するスーパーICU(集中治療室)を12床整備し、より高度な医療サービスで重症度の高い患者の救命につなげていく。「地域の最後のとりで」としての役割を常に自覚し、日本に誇れる病院へ育て上げるのが目標だ。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年08月14日 更新)

タグ: がん津山中央病院

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