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(1)統合失調症 ソフトバレーで自己実現 万成病院理事長・院長 小林建太郎

万成病院エムホールで開かれたドリームカップ。障がい者3チーム、地域から4チームの計7チームが対戦。岡山シーガルズの選手ら4人も参加した=2015年11月15日

小林建太郎理事長・院長

 統合失調症は決してまれな病気ではありません。100人に1人が発病すると言われ、幻覚・妄想・無為自閉などが主な症状です。治療は抗精神病薬による薬物療法が中心ですが、薬は幻覚・妄想には効果的ですが意欲減退や感情の平板化には効きにくいのが現状です。

引きこもりのA君

 A君は20代の男性。高校生の時、「自分の悪口を言われている」「監視されている」といった幻覚妄想状態で発病、治療により幻聴は消失しましたが、10年近く家に引きこもっていました。人と会うのを嫌がり、昼夜逆転しゲームが中心の生活でした。元来スポーツには関心があり、保健師さんの誘いでソフトバレーのチームに参加しました。以来練習は一日も休まず、めきめきと上達しチームの中心選手として、全国障がい者スポーツ大会に出場して活躍しました。その後は一般企業に就職し、休みの日には練習に参加しています。家族も当初は本当につらい思いをされていましたが、今では息子の試合は必ず夫婦で応援に来られています。

誰にでも起こりうる

 統合失調症に限らず、心の病は四つの条件が重なれば誰にでも起こりうると思います。四つとは身体的疲労、不眠、不安、孤立です。適度な運動は睡眠に良い影響を与え、集団スポーツは孤立、不安の軽減に繋がります。具体的なメリットを挙げてみます。

(1)出会いの場、仲間の輪ができる

 スポーツには出会いと感動があります。プレーや応援を通した自然な会話が膨らみます。

(2)生活にメリハリ、規則正しい生活

 日頃の練習により生活にリズムが生まれ、生活の質が向上し再発の予防にも有効です。

(3)ストレス発散、肥満防止

 体を動かすことにより、ストレスの発散、肥満・糖尿病の予防となり、体力の向上に繋がります。

(4)状況対応力、集中力の向上

 ゲームへの集中だけでなく、チームメートへの気配り、臨機応変な対応など認知機能の改善も期待できます。

(5)自己実現、自信の回復

 チームとともに勝利をめざし、人に役立っている体験は大きな自信となり、自尊感情が高まります。

ドリームカップを開催して

 全国精神障がい者バレーボール大会が2001年より開催されています。ソフトバレーボールを使用し、女性選手が1人以上入る以外は6人制バレーボールのルールを原則としています。全国大会をめざし、県大会、ブロック大会で汗を流す選手が増えてきています。

 当院でも06年から障がい者のチームと一般地域のチームが枠を超えて優勝を競うドリームカップを開催しています。驚かされるのは障がい者チームのレベルアップとチームワークの良さです。岡山シーガルズの若手選手も地域のチームの中に入って参加し、白熱した試合が多くなりました。毎年シーガルズの選手は当初は余裕を持ったプレーですが、途中より本気モードに変わっていき、その姿を見られるのが私の楽しみです。

 岡山県選抜の監督として、精神障がい者バレーを14年間指導を続ける宮田芳野さんは「バレーを始めて元気になり、社会に巣立った選手がたくさんいます。その過程で心強い後押しは家族の応援が一番だと思います。頑張ってスポーツするのではなく、続けていく中で仲間を作り、体力・気力・自信がつき、団体行動の中で協調性、社会性を養って、心身ともに元気になって自立につなげていくことが目標です」と力強く学会で発表されました。

集団スポーツの効果

1、対人関係改善 出会いの場、仲間の輪ができる
2、再発予防 生活にメリハリ、規則正しい生活
3、身体管理 ストレス発散、肥満・糖尿病予防
4、認知機能向上 状況対応力、集中力、持続力の向上
5、自尊感情 自信の回復、仲間とともに自己実現

     ◇

 万成病院(086―252―2261)

 こばやし・けんたろう 川崎医科大学大学院卒。同医大講師、万成病院副院長を経て、2001年から現職。岡山県病院協会議長・岡山支部会長、岡山県精神科病院協会副会長。専門は精神科。岡山市出身。62歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年10月17日 更新)

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