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(3)うつ病 治療と回復経過 万成病院副院長 清水義雄

清水義雄副院長

 外来などで「うつ病に効く薬はありますか」と聞かれることがあります。「抗うつ薬は飲んだらすぐに元気が出るような薬ではありませんよ」と説明をします。そして、「うつ病は休みたいのに休めなくなっている状態、充電がうまくできずに電池切れになっている状態です。抗うつ薬はまず休めるように働きます。休めるようになると少しずつ元気も出てきます。そのように働くのが、抗うつ薬の理想的な働き方と言えるでしょう」と付け加えています。

 うつ病になると、夜に眠れなくなり、特に夜中や早朝に目が覚めます。睡眠をとって充電をしようにも、気になることが頭から離れずモーターがぐるぐると空回りを続けていて一向に休まりません。食欲もなく、食べても砂を噛(か)むようで味がせず、体重が減少してしまいます。普通なら楽しいはずの趣味の活動にも興味や喜びを感じられなくなり、リフレッシュすることができなくなります。集中できず、決断力が無くなり、疲れやすいため仕事や家事に支障がでるようになり、自分を責めたり自殺を考えるようになります。休みたいのに休めなくなっている状態、充電がうまくできずに電池切れになっているのに、働いていないモーターを無理やり回そうとしている状態です。

 そのため、うつ病の治療の第一歩は休養をとれるようになることです。うつ病の方に、「がんばろう」と励ますことは良くないとされています。それは前に述べた例え話で言うと、空回りしているモーターをさらに無理やり回し続けようとすることになるからです。

 治療経過には揺れがあることが多く、一直線に良くなることは少ないです。患者さんやご家族には、「三寒四温ですね」と説明しています。冬が終わり春になる季節、暖かい日が続いたかなと思うと、一転して寒さが戻ってきます。しかしそれを繰り返しながら、気が付くと春になっています。うつ病も、ある日を境にして冬が春になるというようには良くなりませんが、薄紙を剥ぐように良くなっていきます。そういう経過をとることを患者さん本人のみならずご家族にも知っていただき、難しいことですが決してあせらないようにしていただきたいと思います。あせったり、あせらせたりすることは、傷んだモーターに無理やりバッテリーをつないで動かそうとすることです。モーターが燃え尽きてしまうと、いくら充電ができても、もう動きません。熱くなったモーターを十分休ませて、充電もできたなら、自然にまたモーターは働き始めるものです。

 一度うつ病になった方は、良くなった後も再発しないように気を付ける必要があります。調子が悪くなる前に、信号機が黄色で知らせるようなサインは無かったでしょうか。寝つきが悪くなった、熟睡できず疲れが取れにくい、などがうつ症状再燃のサインである方も多いようです。大事に至る前に、モーターは働いているけれど触ると少し熱くなっているような段階で、休めるようにした方が良いようです。仕事をやりはじめるととことん頑張ってしまう人も多く、不調になる前に特に張り切ってしまうことが黄色のサインである方もおられます。その場合はあえてブレーキをかける感じで、仕事のペースを落とすことが必要になるでしょう。どんな病気でも同じだと思いますが、うつ病も繰り返すと治りにくくなります。モーターの調子が少しおかしいかなと思われる程度のうちに、自分を休ませましょう。決してモーターを燃え尽きさせてしまわないことが何より大切だと思います。

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 万成病院(086―252―2261)

 しみず・よしお 倉敷古城池高校、岡山大学医学部卒。岡山県精神科医療センター、米国・ロックフェラー大学留学、国立病院機構岡山医療センターなどを経て、2009年から万成病院に勤務。11年から現職。日本精神神経学会指導医専門医、精神保健指定医、日本医師会認定産業医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年11月21日 更新)

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