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アドバンス・ケア・プランニングを知ろう 岡山大学病院緩和支持医療科 松岡順治診療科長に聞く

松岡順治診療科長

生き方見直す機会に

 がん患者や家族らと医療チームが話し合いを繰り返しながら、治療方針を模索するアドバンス・ケア・プランニング(ACP)が注目されている。患者の希望や人生観などを医療、療養生活に反映させ、納得できる最期を迎えてもらおうという取り組みだ。多死社会を迎える中、ACPの普及に力を入れる岡山大学病院緩和支持医療科の松岡順治診療科長(同大大学院保健学研究科教授)に、その意義について聞いた。

     ◇

 ―ACPでは、どのような内容を話し合うのでしょうか。

 重い病気にかかったとき、今後どのような状態になるのか、どんな医療を受けたいのか、受けたくないのか、病気であってもどんなことをしたいのか、どういう最期を迎えたいのか、それは病院で、あるいは自宅で…。そういったことを患者さんと家族、友人、主治医、看護師たちが一緒になって話し合う。

 ―治療に対する意向を前もって示す事前指定書やリビングウイルとはどのように違うのでしょうか。

 ACPは「話し合う」、というのがポイントで、文書に残すことが目的ではない。その過程において患者さんの考え方、患者さんが人生や生活の中で大切にしていることが分かってくる。1回ではなく、病気が分かったり、病状が変わった時などに何度でも話し合う。対話の中でぼんやりとしていた考えや気持ちが、だんだん形を伴いはっきりしてくる。事前指定書などは対話を重視していないので、誰も知らないところで書いたり、患者さんの考えを周囲が理解していない場合、その意思が実現されることはない。

 ―どのような背景があって始まったのですか。

 欧米で広がり、日本には2010年ごろに入ってきた。死について話すことは欧米でもほとんどの人が嫌がるが、死期が近づいた時、話をしていないとどんな治療を受けるのか分からない。周りの人は患者さんがどういう治療を、死を望んでいるのかが分からない。だから元気なうちに語り合いましょうと、始まった。

 ―話し合うと言っても、医師と患者では認識の違いが大きいのでは。

 問題なのは両者のコミュニケーションギャップだ。ある医療雑誌に掲載されたレポートによると、末期の大腸がんと肺がんの患者に抗がん剤治療の効果について聞いたところ、「当然治る」「多分治るんじゃないか」という人を合わせたら、大腸がんで約7割、肺がんでも半分ぐらいいた。実際には治らないが、効果があると思い込んでいる患者は多い。一方、病院の医師は治療法をあれこれ提示しても、余命を含めた今後の見通し(予後)を告げることは少ない。治療に熱心な医師ほどその傾向は強い。

 ―なぜ予後を告げたがらないのでしょうか。

 正確な予想は難しく、間違っていたらという戸惑いもある。さらに、「病気を治す」という医療の本質を投げ出してしまったんじゃないかと思われる恐れもあるからだ。しかし、ACPに詳細な情報提供は欠かせない。医師は治療の限界などについても話をしなければならないし、患者さんからも、一般論であっても「今後どんな治療をしますか」「再発したらどうなりますか」―というような質問を積極的にして、コミュニケーションを深めていくのがいいんじゃないか。

 ―年間の死者は120万人以上。2025年には160万人とも推計されています。多死社会を迎える中、死に真摯(しんし)に向き合う姿勢が必要です。

 死を意識して自分の人生について考える。元気なうちに考えることで、実際そういうふうになった時、あるいは死なないまでも病気になった時、自分にとって何が一番大切だったかが分かる。例えば、家庭を犠牲にして仕事をしているとすると、本当にそれでいいのか、失っているものもいっぱいあるんじゃないか。何が本当に大切なのかを考えなければならない。自分の生き方を見直すというのがACPなんだと思う。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年12月07日 更新)

タグ: がん岡山大学病院

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