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生涯現役社会の実現を オージー技研・奥田宏社長に聞く

生涯現役社会の実現のため、新たな社会システムの構築を訴える奥田宏社長

円柱形の建物が目をひく「グランエリプス北長瀬」の外観。1階にはウエルネスジム「オージーウエルネスフィールド」が併設されている。右奥が岡山市立市民病院

オージー技研の自社製品を中心に、筋力回復の運動機器や筋肉の緊張を緩和する治療器などが並ぶウエルネスジム。自社でリハビリなどを手掛け、利用者の生の声を聞くことで研究開発のスピードアップも図る

サービス付き高齢者向け住宅の一室。バリアフリー構造で、自宅で過ごすようにリラックスしてトレーニングに取り組める

オージー技研 奥田宏社長インタビュー 超高齢化社会支えるモデルに

 岡山市北区北長瀬表町にある、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)とウエルネスジムの複合施設「グランエリプス北長瀬」。病院を退院したが、日常生活には不安を抱く高齢者らが身体機能や体力を回復して自宅に戻るための“中間施設”として、医療・リハビリ機器メーカーのオージー技研(岡山市中区海吉)が運営する。サ高住は高齢者が生活支援を受けながら暮らす賃貸住宅だが、同社によると、社会復帰を前提とする施設は全国で唯一。団塊世代が後期高齢者を迎える「2025年問題」を見据え、生涯現役社会の実現を目指す奥田宏社長に思いを聞いた。

 ―なぜ社会復帰を前提とするサ高住を整備したのでしょうか。

 医療・リハビリ機器メーカーとして、生涯現役社会の実現に向けて何ができるのか、というのが私の大きなテーマです。ここで問題となるのが健康寿命で、日本人は13年の時点で男性が71歳、女性は74歳、平均寿命との差がそれぞれ9歳、12歳となっています。医療や介護に依存しないで、生きがいをもって自立した生活ができる健康寿命を延ばせば、多様な労働参加・社会参加が進み、高齢者も現役として支える側となる社会が構築されるでしょう。

 しかし、60歳を過ぎれば当然身体機能は衰え、何らかのメンテナンスをしなければ維持できません。現役寿命を延ばすには、病気になりにくい体づくりや、病気になり、後遺症が残ったとしても復帰を支える新たな社会的仕組みが必要です。ただ、医療保険や介護保険では限界があります。そこで、民間企業である当社として、保険に頼らない自費の世界でどんなサービスを提供できるのか、その探究の場としてグランエリプス北長瀬を開設しました。

 ―グランエリプスを合宿所に例えていますね。

 短期集中的にトレーニングをし、身体の状態を改善させて早期に社会復帰してもらうためです。トレーニングの疲れを癒やし、生活習慣を整える場です。ただ、保険に頼らないため、費用は全て自費負担となります。併設のジムで1日約2時間のマンツーマントレーニング、家賃、3食の食費、備え付けの家具や家電の使用費、光熱水費などがかかります。

 最終的にはあらゆる人が生涯現役でいられるサポートを受けられるのが理想ですが、現在は試行の段階です。乗用車は最初は誰もが買えるわけではなかったけれど、その後普及が進んで価格が下がり、みんなが持てるようになりました。それと同じように、このビジネスモデルを当社が成功させ、一般化する必要があると考えています。

 ―医療・福祉の在り方を考え直す転換期にさしかかっていますね。

 従来のように医療・介護保険をベースにしたビジネスは縮小に向かうのは明らかです。経済産業省は健康寿命の延伸を踏まえて「生涯現役を前提とした経済社会システムの再構築が必要」と訴えています。今後は介護や医療が必要な状態に陥らないようなノウハウの開発が求められます。さらに、民間ベースならばサービスの質と結果が問われ、好循環が生まれます。出したお金に見合ったものでなければ満足していただけないからです。普及が進んでサービスを低コストで提供できるようになれば、超高齢化社会を支えるビジネスモデルとなり、同時に社会的課題解決の先進国ともなり得るでしょう。

グランエリプス北長瀬 集中トレーニングで早期社会復帰支援

 「グランエリプス北長瀬」は岡山市立市民病院、JR北長瀬駅のすぐ南側にある。鉄骨5階(延べ約3500平方メートル)で1階にウエルネスジム「オージーウエルネスフィールド」が入り、2~5階がサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)となっている。

 明るい日差しが注ぐジムには筋力回復の運動機器、痛みや筋肉の緊張を緩和する治療器などオージー技研の自社製品を中心に21台が並ぶ。軽装の高齢者がペダルを踏んだりストレッチ運動に汗を流している。柔道整復師によるステンレス製の器具を使ったグラストンテクニックは、筋肉を包んでいる筋膜をほぐす技術だ。メジャーリーグやNBAなどでも公式採用されているという。

 バリアフリー構造のサ高住には約30~90平方メートルの50室があり、うち45室が1人用、5室が2人用となっている。車いすで生活できる居室もあり、洗面台が車いすの高さに合わせて上下するよう工夫されている。

 脳卒中や骨折などで入院した高齢者が、後遺症などのため自宅で生活するには不安がある場合、2~3カ月間入居して集中的にトレーニングや治療を受け、身体機能や体力を改善したうえで自宅に帰ってもらうことを目指している。自宅から健康増進のためにジムに通うことも可能だ。

 指導・治療は理学療法士やスポーツトレーナー、看護師ら多職種の専門家がチームを組んで当たる。入所時にカウンセリングをし、体力測定を行い身体状態を評価。「早く職場に戻りたい」「岡山マラソンで完走したい」など目標を設定し、その人に合わせたトレーニングプランを立案、効果を上げている。入居時には車いすでの生活だった70代の男性が、半年後には歩行器で歩けるようになって退居したケースもあるという。

医工連携テーマにシンポ 3月14日・岡山大

 岡山大学は14日、岡山市北区鹿田町の鹿田キャンパスにある「Junko Fukutake Hall」で医療産業の育成を図る「メディカル・イノベーション2017」を開く。

 妹尾昌治副学長が「地域発の医工連携イノベーションの現状と展望(新大学院設置に向けて)」と題して講演。医工連携をテーマにしたパネルディスカッションでは、医療・リハビリ機器メーカー「オージー技研」の奥田宏社長、東北大学学際科学フロンティア研究所の佐藤正明所長、妹尾副学長の3人が、岡山大大学院医歯薬学総合研究科長の那須保友教授をモデレーターに意見を交わす。

 岡山大の医療分野での先端研究シーズおよびニーズの紹介や、医療機器メーカーなどによる展示もある。

 午前10時~午後6時半。参加は自由、入場無料。問い合わせは岡山大研究推進産学官連携機構(086―251―8465)。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年03月06日 更新)

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