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(2)高度進行大腸癌肝転移の治療 天和会松田病院院長 松田忠和

松田忠和院長 

 がんの死亡率は女性では大腸がん(以下結腸がんと直腸がんを含めて大腸がんと言います)が1位となり、男性でも3位ですが2位の胃がんに迫る勢いです。

 大腸がんは比較的他のがんと比べ進行速度が遅く比較的予後の良好な疾患ですが、初診時に15~20%に同時性肝転移を、残りの20%に異時性肝転移を認めています。つまり見えるかどうかは別として、3人に1人以上の確率で初診時すでに肝臓に転移があるということになります。

 そこで大腸がんの治療の予後の改善には肝転移の制御をいかにするかにかかっている部分が大きいと言えます。約10年前までは進行大腸がんに対して有効な抗がん剤がありませんでしたが、2008年にイリノテカン、10年にオキサリプラチンが登場しました。さらに07年以降、分子標的薬(がん細胞だけが大量に発現させる特有のたんぱく質=分子=を標的にし、その働きのみを妨害する薬)であるベマシツマブ、セツキシバブ、パニツマブが併用されるに至り、抗がん剤との併用で都合最大6通りの組み合わせの投与が行われるようになり、さらに延命が得られるようになりました。

 しかし残念ながら、これらの薬物治療でも根治は得られません。やはり大腸がんの肝転移は肝切除治療が最も良い適応で、積極的に切除することで良好な予後が望め、また大腸がんの肝転移を治す唯一の方法は手術です。

 当院でも積極的に大腸がん肝転移を切除し5年生存率63%とほぼ3人に2人の方が完治しているという比較的良好な成績です。また、この間術後30日以内の在院死症例は0%でした。しかし初診時肝転移が高度で一度に根治切除が不可能と判断される症例もあり、そのような場合はまず抗がん剤治療を先行させ手術に移行させるConversion Therapy(適当な和訳がありませんが治療方法の変更というほどの意味です)を行います。

 また、当院では化学療法で効果が不十分と判断したら早めに(2週間隔で3クールの時点で判断します)、肝臓に集中的に抗がん剤を集めるために、肝動脈にカテーテルを留置しリザーバーという小さな道具を埋め込み動注化学療法に変更し経過を見ます=図1

 いずれにせよ効果が出てきたと判断すれば、多くの場合6から8クールの時点で、図2のごとく(1)切除側の門脈(肝臓へ流れ込む血流の大半を占める胃腸からの静脈)をカテーテルで塞栓し残存予定の肝臓を増大させたり、(2)二期に分割して切除したり、(3)ALPPSといって大きく切除する予定側の門脈を切離し、残存予定肝部との間を離断しその中にある小転移巣を切除するなどの工夫をします。

 これらはいずれも残存予定肝部の不足による肝不全防止のための努力です。また最近では、肝静脈の巻き込まれている症例ではその他の病変が完全切除されていれば、高度先進医療となりますが陽子線を当てるという集学的治療も行っています。いずれにせよさまざまな工夫を凝らしてあきらめずに治療を続けることが大事と考えています。

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 天和会松田病院(086―422―3550)

 まつだ・ただかず 倉敷青陵高校、岡山大学医学部卒業。水島第一病院勤務などを経て同学部第一外科助手を務め、1985年から松田病院に勤務、2004年、院長・理事長に就任。09年に松岡良明賞受賞。日本肝臓学会肝臓専門医、日本肝胆膵外科学会高度技能指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年06月19日 更新)

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