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岡山大病院生体肝移植 中四国最多の200例突破 生存率83.6% 全国上回る

すっかり元気になったふみ野ちゃんを見つめるいづみさん(右)

八木孝仁講師

 岡山大病院(岡山市鹿田町)が手掛ける生体肝移植が200例を超えた。中四国の医療機関では最多の症例数で、治療成績の目安となる5年生存率は83・6%と全国平均(76・1%)を上回る。治療法として定着しつつあるが、一方で進まない脳死移植、健康な体にメスを入れるという臓器提供者へのリスクなどの課題が残っている。

 「手術前には想像もできなかった。こんなに元気になるなんて」

 岡山市大供のマンション。おもちゃを手に部屋を動き回る女児、内田ふみ野ちゃん(1つ)を、母いづみさん(31)が笑顔で見つめる。

 ふみ野ちゃんは、生後3カ月目に肝臓と十二指腸をつなぐ胆道が機能しない「胆道閉鎖症」と診断された。

 黄疸(おうだん)が出て、腹水はたまるいっぽう。「肝硬変も進んでいる。移植しか助かる道はない」。診察した岡山大病院の八木孝仁講師(51)=肝胆膵外科=は今年3月、いづみさんの肝臓約20%を移植した。同病院で188例目の生体肝移植だった。

安全性が向上

 健康な人から肝臓の一部を摘出し、重い肝臓病の患者に移植する生体肝移植。胆道閉鎖症やウイルス性肝炎が進行して起こる劇症肝炎、肝がんなどが適応症例だ。

 同病院は1996年8月に一例目を実施。99年まで年2、3例で推移し、2000年に2けたに到達。がんなど保険が適用される症例が拡大された04年には初めて年間30例を超えるなど、順調に症例を重ね、今年8月に200例を超えた。(10月17日現在で204例)

 特に05年は京大、九州大、東大に次ぐ国内4位となる37例を手掛け、まさに「中四国における肝移植の中核医療機関」(八木講師)となっている。

 生存率は全国平均を上回り、中でも胆道閉鎖症は21例(小児18例、成人3例)中、全員が生存。八木講師は「安全性が確立されつつある生体移植は今後も増えるだろう」と予想する。

受け入れ充実

 多臓器不全状態で行われる肝移植の手術時間は平均12、3時間。大量の出血を伴うなど極めて危険性が高い手術でもある。

 八木講師は、03年から太さ約2ミリの血管と肝臓をつなぐ際、顕微鏡を使わず目視で行うことで、ほぼすべての移植を10時間以内に終えることに成功。「高い技術が要求され医師の負担は増すが、1、2時間でも血流を止める時間を短くするメリットはとても大きい」と強調する。

 07年4月には医師と患者・家族の間に立ち、さまざまな相談に応じる専属の肝移植コーディネーターを1人配置。術前、術後の精神的なケアを含め、重要な役割を担う。生存率向上の背景には、こうした受け入れ態勢充実が挙げられる。

家族に不利益

 患者の劇的な回復が望める生体肝移植だが、臓器を摘出する臓器提供者にとってリスクがないわけではない。

 日本肝移植研究会が07年に行った調査では、臓器提供者の3%に大量出血や胆汁の漏れなど、合併症を起こしていることが分かった。八木講師は「臓器提供者となる家族が100%不利益を被るのが生体移植。いかに脳死移植を増やしていくかが最大の課題ではないか」と話す。

 1997年に臓器移植法が施行されて以降、脳死肝移植は2006年末までに全国で35件で、岡山大病院ではゼロ。法律の厳格な基準が壁となり、生体の約4300件と比べると雲泥の差だ。

 八木講師は「臓器提供者の死亡例などもあり、世界的に生体肝移植が減る中、肝移植の99%を生体に頼る日本の現状は異質」と指摘。「血液型の違いなどで臓器提供者が確保できず、脳死移植を待つしかない患者が多いのも事実としてあり、いま一度、社会全体で脳死を議論する場が必要だ」と話している。


 肝移植 腎臓や肺と違い、切除しても大きさと機能が1年でほぼ元通りに再生する肝臓の特性を利用した医療。1963年にトーマス・スターツル教授(米ピッツバーグ大)が世界で初めて脳死下での移植を行って以降、世界に広まった。日本では89年に島根医科大で実施された生体移植が1例目。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2008年10月18日 更新)

タグ: 岡山大学病院

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