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「線維芽細胞」活性化で血管新生、がん増殖に関与 岡山大大学院の野間医師が解明

野間和広医師

 コラーゲンなどを作る線維芽細胞が食道がん細胞によって活性化され、がんに栄養を送る血管網の形成を促進していることを岡山大大学院の野間和広医師(33)=消化器・腫瘍外科学=が突き止めた。

 線維芽細胞は皮膚や粘膜などの上皮下にある間葉系細胞の一つ。がん増殖に関与しているとの報告はあるが、詳しいメカニズムは未解明だった。この細胞を標的にした治療薬開発につながる成果として注目される。

 野間医師は、アジア人に多い食道扁平上皮がんの細胞と線維芽細胞を同時に培養。線維芽細胞が活性化した際に多く作られるタンパク質は、線維芽細胞の単独培養に比べて増えており、がん細胞との相互作用が明らかになった。

 さらに、活性化された筋線維芽細胞と、がん増殖に必要な微小血管網の形成(血管新生)の関係を調査。円すい状のプラスチックプレート(直径1・6センチ、深さ1・8センチ)の中に線維芽細胞とがん細胞、血管上皮細胞を立体的に重ねて培養する手法を開発、体の組織に近い形を再現した。

 その結果、約1週間後にがん細胞の入った筋線維芽細胞が血管上皮細胞を引き寄せ、血管同士をつないで毛細血管を形成。線維芽細胞単独の場合に比べて、2倍以上の血管網を作った。逆に、食道がんの増殖と線維芽細胞の活性化の両方に強く関与する生理活性物質の阻害剤を入れると、血管新生は起こらなかった。

 野間医師は「線維芽細胞の活性化を止めれば血管新生が起こらず、がん増殖も抑えられる。今回開発した実験手法で、特定の組織の働きを抑える分子標的治療薬の効果を探る研究もできる」と話している。

発がん予防応用も

 京都大大学院武藤学准教授(消化器内科学)の話 最近、食道がんの初期から血管新生が起きていることが分かってきているが、なぜ発生するのか不明な点が多かった。線維芽細胞の関与などを明らかにした今回の研究は、発がん段階で治療の標的とする分子の解明や発がん予防への応用が期待できる重要な発見だ。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2008年10月26日 更新)

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