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進行がん、充実した人生指南 岡山の緩和ケア医が著書出版

がん患者の緩和ケアに携わる中での「気づき」を著書にまとめた原史人医師=岡山済生会総合病院

 緩和ケア医は限られた時間をどのように過ごすかを提案する、人生最後のコンシェルジュ(案内人)―。岡山済生会総合病院(岡山市北区国体町)の緩和ケア科診療顧問を務める原史人医師(68)が、がんの進行に伴う体の変化への準備、充実した人生を全うするための心の準備を指南する著書を出版した。

 「進行がんと診断されたかたに伝えたい セレンディピティ」(幻冬舎)。セレンディピティとは、思いがけず訪れる幸運な出合いや気づきを指す。緩和ケアを通じて経験したさまざまな患者や友人たちとのエピソードをセレンディピティと捉え、各章の合間に織り込んだ。

 胸部外科医として多くの肺がんを手術してきた原医師は、再発や転移を経てしんどい状態のまま亡くなる患者たちに胸を痛めた。そこで2008年、院長を務めていた倉敷第一病院に緩和ケア病棟を開設し、16年からは済生会病院に移り、緩和ケア医を続けている。

 がんが進行し、胸水や腹水がたまるとなぜ息苦しくなるのか。最期の時に向かってどのように意識が薄れ、呼吸が変化していくのか。著書の中ではできるだけ具体的に説明した。「自分の体がどうなっていくのか知らなければ、価値ある時間を無駄に過ごしてしまう」と憂うからだ。

 その上で、呼吸を楽にする姿勢や痰(たん)を吐き出すための介助法、食欲が低下した時に少しずつついばむように食べる「小鳥食い」など、在宅療養でもできるケアをアドバイス。日本酒の好きな人には、少し薄めた日本酒をスプレーボトルに入れて口内に吹きかけるなど、体だけでなく心も安らぐ工夫を教えている。

 緩和ケア病棟に入院したある男性患者のケースでは、原医師の勧めで病棟内で長女の結婚式が行われた。スーツ姿の患者は車椅子から立ち上がって新婦をエスコートし、4日後に亡くなった。限りある時間をどう使うのか、心打たれるエピソードだ。

 がんが進行して緩和ケアを紹介された時、落ち込むのではなく「よかった」と思ってほしいと原医師は願う。寒い雨の日にバスに乗り遅れ、停留所に立ち尽くす人に「雨風をしのぎ、ストーブをたいて暖かくした待合所を提供する」のが緩和ケアの役割だと言う。

 趣味のスケッチを生かし、文中の挿絵は自分で描いた。表紙の「ある流離」と題された絵は、がんと7年間闘病して亡くなった幼なじみの女性日本画家の作品。死に瀕(ひん)した彼女がこの絵のクジャクに自身を重ね、両親に別れを告げたことを知り、セレンディピティの一つに挙げている。

 原医師への連絡は、岡山済生会総合病院緩和ケア相談室(086―252―2796)。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年05月08日 更新)

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