文字 
  • ホーム
  • 岡山のニュース
  • 医療事故第三者機関設立へ動き 岡山県内でもモデル事業 協力医確保や周知面に課題

医療事故第三者機関設立へ動き 岡山県内でもモデル事業 協力医確保や周知面に課題

 診療中に起きた死亡事故の原因を究明する第三者機関設立に向けた動きが県内で進んでいる。厚生労働省が6月、医療版事故調とも呼ばれる「医療安全調査委員会(仮称)」の大綱案を発表し、その試行とも言えるモデル事業。調査に欠かせない協力医の確保など課題もあるが、医師、患者双方の負担軽減や有効な再発防止策につながるか注目されている。

 「『胃カメラをのむ』としか聞いていなかったから、最初は何がなんだか…」

 県南部の医療機関で2001年3月、父親を亡くした男性(40)=倉敷市=は、一報を聞いた時の動転ぶりを振り返る。

 胃にポリープの疑いがあり、内視鏡検査を受けるため受診。「麻酔中に急に呼吸困難になった。脳内出血が起きたのでは」と説明を受けたが、別の病院で調べても出血の跡はなかった。

 不信感を募らせた男性は半年後に提訴。父親がアレルギー体質を伝えていたにもかかわらず、局所麻酔薬を通常の倍の量使っていたことが判明、急激なアレルギー反応を起こした疑いが強まった。6年後、医療機関が損害賠償を支払うことで和解した。

 「裁判は多額の費用がかかる上に精神的にもきつかった」と男性。「お金が目的ではない。事実を知りたかった」と話す。

   ■    ■

 事故が疑われる死亡事例は現在、医師法の規定で医療機関が24時間以内に警察に「異状死」として届け出、警察が故意や過失などの事件性を調べる。

 06年、福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた女性が死亡し、医師が業務上過失致死などの疑いで逮捕された(後に無罪確定)。故意や明白なミスがなかっただけに、「産科医不足や医療行為の萎縮(いしゅく)を招いた」と批判が上がった。

 厚労省は07年4月に医療安全調査委員会の検討会を設置した。故意や重大な過失があった場合などを除き、警察ではなく調査委への届け出を義務づける大綱案を発表。国会への法案上程を計画する。

 国の動きに先立ち、日本内科学会は05年に「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」を開始した。東京都、愛知県、大阪府など8地域に続き、岡山でも今年8月、県医師会に事務局を設置。医療機関から事故の届け出受理を始めた。これまでに受理した事例はないという。

   ■    ■

 実施体制に不安を漏らす声もある。

 モデル事業は、協力医が遺体を解剖、評価し、遺族、医療機関への聞き取り調査を経て半年をめどに報告書を作成、公表する。調査委の仕組みも大筋は同じだ。

 モデル事業の解剖担当医や臨床評価医は県内で約200人だが、「多忙な医師が協力できるのか疑問」と岡山市内のある病院長。特に解剖に立ち合う病理医や法医は不足し、法医解剖の執刀医は県内に1人だけ。「医師を増やすなどの抜本改革が前提」との声もある。

 また、全国の届け出受理件数は開始から3年で76件にとどまり、周知面でも課題がある。

 モデル事業の地域代表者・清水信義岡山労災病院院長は「加害者、被害者という対立関係の中で解決を図る訴訟は公平な調査が十分ではない。医療の信頼回復という面でも必要な制度だけに、前向きに取り組んでもらいたい」と話している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2008年11月06日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ