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(1)地域との架け橋「ひまわりサロン」 万成病院多機能型事業所「ひまわり」施設長 田淵泰子

5周年と50回を記念したひまわりサロンでも地域住民の方々と合唱団を結成し、盛り上がった=2008年5月

100回記念のひまわりサロンではフィナーレで全員が一つの輪になり、ゴスペルを合唱した=2012年10月

田淵泰子施設長

 ●サロン10周年

 「君は愛されるため生まれた。君の存在は愛に満ちている」。ゴスペルソングを歌いながら、手と手をつなぎ、目頭を拭う姿が会場のそこここにありました。地域との架け橋を理念に当事業所が主催する「ひまわりサロン」が2012年10月、10周年第100回を記念して開いたイベントの光景です。参加者の心が一つになり、静謐(せいひつ)な空気に満ちていました。私も10年間の日々が走馬灯のように頭の中を駆け巡り、涙がこぼれ落ちました。

 放送局から転職し、2003年に万成病院に入職した当初、「ひまわり」は来訪者も少なく、単調な日々が繰り返されていました。毎日が出会いに恵まれていたマスコミの仕事とのギャップは大きく、「人は出会いから成長するのでは」と上司に相談し、入職2カ月目にサロンを立ち上げました。

 琉球舞踊、キックボクササイズ、和太鼓演奏、うらじゃ演舞など住民と共に学び合う仕掛けを企画しました。30回記念は地域の皆さんと合同コーラス団を結成し、手話を交えながら沖縄音楽メドレーの練習を重ね、舞台披露にも挑戦しました。当初の住民参加は数人でしたが、回を重ねる度に地域の恒例行事として定着し、毎回約300人が集いました。10年間で延べ約7千人が参加しました。

 ●共に生きる社会へ

 「患者さんは応援したい存在」「こんな平和な空間があったなんて」。毎回、サロンに参加した住民を対象に実施した「精神障害への意識調査アンケート」では、サロンにより、精神障害へのマイナスイメージが大幅に減少し、プラスのイメージが増加する結果が明らかとなりました。

 「この街で育ち、この街で生きています。皆様方の愛を感じます」「この地域に住んでいることが誇り」「生きる喜びを感じる」「地域に貢献したい」。こころの病がある当事者は、自身が抱くセルフスティグマ(内なる偏見)により、とかく地域との関わりが希薄になりがちです。サロンは当事者の社会参加も促進し、地域に受け入れられているという自己肯定感を再構築する機会となっていきました。

 「精神障がいの方々を差別せず、お付き合いするため、これからも定期的に地域交流活動を進めてほしい」「自分や家族がいつ病気になってもおかしくないと思うようになり、より身近なことと捉えるようになった」「周囲の心がけや支援のあり方が、精神疾患や障がいなどの状況を左右しているのだと気付かされた」。地域と連携した福祉拠点や町づくりの参考にしたいと、当事業所を訪れる視察者が増加の一途をたどっています。地域住民、行政、民生委員、愛育委員、医療機関、福祉事業所、当事者会、家族会などさまざまな方がおいでになります。

 ●地域との架け橋

 「ぼく、人のぬくもりに敏感なんよ こころの温度がわかるんじゃ。ぬくいんか冷たいんかはわかるんよ ほんの小さなことでも ぼくの心は揺れるんよ」

 当事業所の卒業生Tさんが創作した詩です。地域との架け橋となっているのは、こころの病がある当事者の存在そのものでした。闇をくぐり抜けてきた人の強さ、痛みを知った人の優しさ、水を得た魚のように詩や絵画などの作品を生み出す豊かな才能に、私たちはいつも学ばせていただいています。

 入職当時、夢にまで見た地域との架け橋が今は日々、目の前にあります。障がい者に優しい町は、誰にとっても住みやすい町。地域の皆さんとの信頼関係を紡ぎながら、地域のメンタルヘルス普及に貢献したい。ひまわりサロンで体得した思いが今日も、私たちを熱く駆り立てています。

     ◇

 万成病院(086―252―2261)

 たぶち・やすこ 山陽放送アナウンサーとして働いた後にフリーアナウンサーとして独立。千葉テレビ、西日本放送、岡山シティエフエムでキャスターやパーソナリティーを担当した。2003年、万成病院に精神保健福祉士として入職。公益財団法人こころのバリアフリー研究会評議委員。岡山県教育委員会人権教育講師。早島町教育委員会いじめ対策問題協議会委員。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年06月04日 更新)

タグ: 福祉精神疾患万成病院

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