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非アルコール性脂肪肝炎 第2の肝臓病原因に 岡山・川崎病院調査 10年間で2.5倍

川崎病院での肝疾患原因(グラフ)

山田剛太郎医師

 メタボリックシンドロームと密接に関連するNASH(ナッシュ)(非アルコール性脂肪肝炎)がじわじわと増えている。米国などに比べ日本では少ないとされてきたが、川崎病院(岡山市北区中山下)では、肝臓病患者に占めるNASHを主体とする非アルコール性脂肪性肝疾患の割合が10年間で2倍半に増加。すでにC型肝炎に次ぐ2番目の要因になっている。

 NASHは明らかな飲酒歴がない(1日のアルコール摂取量20グラム=日本酒1合程度=以下)にもかかわらず、アルコール性肝障害によく似た症状を示す。ウイルス性肝炎や自己免疫性肝疾患などがあれば除外され、単純性脂肪肝とも鑑別されなければならない。

自覚症状なし

 NASHが恐ろしいのは、自覚症状がないまま肝硬変へ進行してしまうこと。肝細胞がん発症の危険性も指摘され、診断時にはすでに有効な治療法がなく、肝移植の適応とされるケースが少なくない。

 「脂肪肝は『元に戻る病気』と軽視される傾向があったが、その中からNASHに移行する患者が10―40%くらいいるのではないか」。川崎病院顧問の山田剛太郎医師(前副院長)は、NASHの急増に危機感を抱いている。

 同病院を受診した肝臓病患者のうち、非アルコール性脂肪性肝疾患の割合は1996年からの4年間で6・5%(127例)だったが、2004年からの期間では16・8%(312例)に達した。大半はNASHを発症していた。B型肝炎やアルコール性の割合を追い抜き、「国民病」に位置づけられて国を挙げた対策が取られているC型肝炎が漸減傾向にあるのとは対照的だ=グラフ参照。

 米国では1980年にNASHの概念が提起され、研究が進んだ。しかし、肝炎ウイルスの感染者が多く、その対策に傾注した日本では、89年にC型ウイルスが発見されたことも影響し、NASHはあまり顧みられなかったという。

診断には肝生検

 進行しない単純性脂肪肝とNASHを見分けるのは容易ではない。脂肪肝はエコー(超音波)やCT(コンピューター断層撮影)の画像によって診断できるが、NASHと確定するには、肝臓に針を刺して組織を採取する肝生検が必要。線維化が進んだり、風船のように膨らんだ細胞がないか、顕微鏡で観察する。

 「脂肪肝を指摘され、血液検査の肝機能値(ASTやALT)に異常があれば、一度は肝生検を受けた方がいい」と山田医師は助言する。2型糖尿病につながるインスリン抵抗性の指標や、生理活性物質アディポサイトカイン(食欲抑制ホルモンのレプチンなど)も、診断マーカーとして役立つと見込まれている。

食事、運動療法で

 治療としては、NASH発症の第一段階となる脂肪肝を防ぐための食事、運動療法が基本。糖尿病治療やメタボ解消プログラムと基底は同じ。インスリン抵抗性改善薬など、薬物療法も試みられているが「体重増加の副作用などが見られ、長期的な効果ははっきりしない」(山田医師)という。

 日本肝臓学会がまとめた診療ガイドによると、少なくとも成人の0・5―1%がNASHと推定され、C型肝炎の発症頻度に迫る可能性がある。山田医師らは、公開講座の開催など、行政、医療者、市民が連携した対策の必要性を訴えている。

   ◇    ◇    ◇

 インスリン抵抗性 血糖値を低下させるホルモンのインスリンが分泌されても、体が十分に反応しなくなっている状態。肝臓での糖代謝が阻害され、中性脂肪の蓄積が促進される。血液検査により、空腹時の血糖値とインスリン値から簡易な予測値(HOMA―R)を算定できる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2009年06月29日 更新)

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