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がんの痛み 緩和医療へ理解呼び掛け 岡山県内で「野の花プロジェクト」

「がん患者、家族の生活の質を高めるには痛みを取り除くことが欠かせない」と語る松岡教授

 日本人の2人に1人が患い、3人に1人が亡くなるがん。患者の7割以上が痛みに苦しむとされる。そうした苦痛を和らげる緩和医療を充実させ患者、家族のQOL(生活の質)向上を目指す「野の花プロジェクト」が岡山県内で始まった。運動を主宰する岡山大大学院医歯薬学総合研究科の松岡順治教授(緩和医療学)に狙いや活動について聞いた。

 世界保健機関(WHO)は「すべてのがん患者を痛みから解放する」のを目標に1986年、モルヒネなどの医療用麻薬で痛みを除くがん疼痛(とうつう)の治療指針を発表。これに沿い治療すると、痛みの9割は取れるか軽減するとされる。だが、それから20年以上たっても、日本は緩和医療の取り組みが遅れ、医療用麻薬消費量は先進国で最低レベルにとどまる。なぜなのか。

 「緩和医療はがん治療と並行して行うべきなのに、医師は治すことに専心し、苦痛を取り除くのは二の次、三の次になりがち」。松岡教授は指摘する。

 背景には「我慢すれば痛みは治まる」という患者側の誤った考えや、医師との関係がうまくつくれず苦しさを伝えにくい問題もあるという。「我慢していても痛みは良くならない。苦痛を感じたら、医師や看護師に積極的に訴えてほしい」と呼び掛ける。

 「麻薬中毒になる」「最後に使う薬」など医療用麻薬に対する誤解、偏見もある。岡山大病院(岡山市北区鹿田町)のがん患者をサポートする緩和ケアチームのリーダーでもある松岡教授は「痛みを取るのに医療用麻薬を使っても中毒にはならない。がんの早期から使うことも多く、末期だから使うのではない」と解説する。

 プロジェクトの実行委員会は岡山大病院を中心に岡山、倉敷、津山、真庭市の医師、看護師、薬剤師や患者団体、介護関係者などで構成。県民や医療職に緩和医療への理解を訴え、普及を図る。

 今月上旬、県民に情報を提供するホームページ(http://nonohana―okayama.org)を開設。医師らががん治療などを解説する「岡山メディカルカフェ」を11日、倉敷市の商業施設で開いた。

 今後は県民の要請に応じ講師を派遣し10人、20人単位の小さな講演会を重ね、患者や家族から痛みの相談にも応じる計画。11月8日には、子宮がんと胃がんを克服して頑張っている女優の仁科亜季子さんを特別講演の講師に招き、市民公開講座を岡山市で開く。

 岡山大は今年4月、国立大で大阪大に次ぎ2番目という緩和医療学講座を開設。医学生の教育も担う松岡教授は「緩和医療への理解を草の根で広め、患者から医療者に働き掛けてもらえるようにしたい。がんについてもっと知ってほしい」と県民に呼び掛けている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2009年10月19日 更新)

タグ: がん健康岡山大学病院

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