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第5回 肺がん 岡山赤十字病院 渡辺洋一副院長 優れた薬開発され光明 禁煙が最も有効な予防

 わたなべ・よういち 鳥取大医学部卒。岡山赤十字病院呼吸器内科副部長などを経て2009年から副院長兼呼吸器内科部長兼緩和ケア科部長を務める。

肺がん治療に使用する主な薬剤(表)

主な死因別死亡者数の割合、主な部位別がん死亡率(グラフ)

 国内で死亡原因の1位である悪性新生物(がん)の中でも、最も死亡者数が多い肺がん。岡山赤十字病院(岡山市北区青江)で呼吸器内科部長を務める渡辺洋一副院長に、最新の治療法や予防法などを聞いた。

 ―がんは早期発見が重要。岡山県は先駆的に肺がん検診に取り組んできたと聞きます。

 肺がん検診は通常、胸部レントゲンと 喀痰 ( かくたん ) 検査で行います。レントゲンでは専門医が画像から異常な影を見つけ出し、喀痰は提出された喀痰からがん細胞を検出します。岡山県は1980年代から全国に先駆け、1人のレントゲン画像を複数の医師が重ねてチェックする方法を導入しました。また、喀痰検査との併用も早くから実施するなど、全国をリードしてきた肺がん検診の先進県と言えます。

 ―国内で広く行われている治療は、どういったものでしょうか。

 肺がんは、がん細胞の組織や形態によって分けられ、小細胞がんと非小細胞がんに大別できます。患者の2割が小細胞がんで、進行が早く転移しやすい性質があり、抗がん剤などによる化学療法がメーンとなります。残りの8割が非小細胞がんで、腺がん、 扁平 ( へんぺい ) 上皮がん、大細胞がんに分かれます。早期なら、がんを切除する外科手術が治療の中心となります。

 ただ、肺がんは見つかった時点で進行している場合も多く、外科手術が有効でないことも多い疾患です。このような場合は放射線療法や化学療法などの治療を行います。

 ―近年、優れた治療薬=表参照=が相次いで承認されているそうですが。

 2000年以後、副作用が少なく治療効果も高い優れた抗がん剤が多く承認されています。小細胞がんの治療には、シスプラチンにイリノテカンなどの組み合わせがあります。非小細胞がんにはカルボプラチンにパクリタキセルなどを使います。ただ、主治医が患者さんの症状に合わせて薬を選択しています。必ずしもこの組み合わせになるとは限りません。

 ゲフィチニブ(製品名・イレッサ)やベバシズマブ(同・アバスチン)といった「分子標的薬剤」と呼ばれる薬の開発も治療に光明をもたらしました。分子標的薬剤は非小細胞がんの患者のうち、検査で特定の遺伝子異常が認められれば、大きな効果が期待できる優れた薬で、画期的な治療法の一つになっています。こうした化学療法の進歩により、高齢者でも強い副作用に苦しむことなく、治療を受けられるようになりました。

 ―放射線治療について教えてください。

 放射線治療も随分と進歩しています。正常な肺組織への照射を避け、がんの部位だけに放射線を当てる「定位放射線治療」といった先端的な治療法が開発されています。専用機器や、高度な機器を扱う専門技術が必要ですが、岡山県内でも導入する病院が徐々に増えています。

 ―肺がんは喫煙との関係が深いと言われます。

 その通りです。喫煙者は男性なら非喫煙者の4~5倍、女性は3~4倍かかりやすいという調査結果が出ています。副流煙もリスクとなり、夫が喫煙者なら夫人は非喫煙者の1・3~2倍発症しやすいとされています。

 ―どのようにすれば予防できますか。

 喫煙者は言うまでもなく、禁煙することが最も有効な予防法です。たばこをやめれば数年後には、非喫煙者とほとんど変わらないリスクになります。また、生活する上で注意すべき点は、どの病気にも共通しますが、バランスの良い食事や適度な運動をするなど規則正しい生活を送ることが大切です。

 ―肺がん患者は今後増加すると予想されていますが。

 肺がんは治療後の経過が悪かったり、治りにくいがんであると言われていますが、 罹患 ( りかん ) しても決して悲観的にならないでほしいですね。

 岡山県は全国でも検診・診断医、胸部外科医、呼吸器内科医、放射線医、緩和ケア医ら肺がんの専門家が多く、高度で適切な治療を受けられる地域です。社会生活、家庭生活を維持しながら、通院で化学療法などを受けられる環境も整いつつあります。専門医、かかりつけ医とよく相談し、ご自身の生活を大切にしながら病気に立ち向かってほしいと思います。


病のあらまし

 国内で年間8万5千人以上が発症しているといわれる肺がんは、がんの中でも最も死亡者数が多く、死亡率も高い疾患だ。

 国の統計によると、2008年の肺がんによる死亡者数は6万6849人で、前年から1241人増加。人口10万人当たりの死亡率は53.1人で前年から1.1人増えた。いずれも年々、増加傾向で10年後には現在の1.4倍にあたる9万人が肺がんで死亡し、うち75歳以上の高齢者が60%を占めるとの予測もあり、その対策は喫緊の課題になっている。

 がんは遺伝子が傷つくことなどで引き起こされる。肺がんはかなり進行するまで症状が出にくい。せきや 血痰 ( けったん ) が出たり、進行してがんが胸壁まで達した場合などは胸に痛みを感じたり、呼吸困難などの症状が出ることもある。

 治療法や予後は、種類(組織型)と病期(進行度)によって異なる。組織型は細胞の種類や進行の早さなどで分類し、さらに、がんができる部位により、太い気管支周辺に発生した場合を「肺門型」、肺の 末梢 ( まっしょう ) まで進行すると「肺野型」と呼ぶ。

 最大の原因は喫煙とされ、世界各国で喫煙抑制などの公衆衛生政策が取られている。中皮腫を引き起こす石綿(アスベスト)も肺がんの原因の一つとされている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年02月15日 更新)

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