文字 

第1部 さまよう患者 (2) ずれ 「治療法ない」に不信感

名古屋共立病院で放射線治療を受ける外山さん(中央)。いくつもの病院を経て、ようやく納得できる治療に出合えた=昨年12月

 「治療法はありませんね」。医師は繰り返すばかりだった。

 「じゃあどうすればいいんですか」。外山貴代子さん(70)=備前市久々井=は何度も問い直した。結局、今後の方針は何も決まらないまま、岡山市の総合病院を後にした。昨年6月のことだ。

 進行した 膵臓 ( すいぞう ) がん。地元の病院で検査を受け分かった。肺に転移し、すでに手術ができる状態ではない。この総合病院に転院して抗がん剤治療を受けたが、効果はなかった。

 説明に納得できずインターネットで調べ、膵臓の「権威」がいるという大阪市の病院も訪ねた。

 だが、そこでも「抗がん剤が効かない以上、他に方法はない」。同様に探した兵庫県の病院では診察すら断られた。

 絶望のどん底だった。

  ~

 昨年暮れ。名古屋共立病院(名古屋市中川区)に、うれしそうに話す外山さんの姿があった。

 「ここにたどり着くまで長かった」

 放射線治療を引き受けてくれる病院があると聞いたのは3カ月前。あきらめきれず、倉敷市の医療機関のセカンドオピニオン外来を受診した時だ。

 「数カ月単位の命が、数年単位になりますよって言われて。これだと思ったんです」

 がんを狙い撃つ定位放射線治療。1回10分の照射を1カ月間で20回受けた。

 肺がんなどには効果が認められている。ただし、膵臓がんへの照射は健康保険の適用外。総額70万円の治療費は全額自己負担になる。自宅を長期間空けることにも悩んだ。

 幸い、息子夫婦が愛知県に居住、治療の約1カ月間はここから病院に通うことができた。そして何より、「納得できるまでがんと闘い続けられる」ことに満足だった。

  ~

 患者と医療者との間に「ずれ」があるのではないか―。

 東北大大学院の宮下光令教授(緩和ケア看護学)らが2009年にまとめたアンケート。東京大病院の放射線科外来のがん患者450人と同病院でがん診療にかかわる医師、看護師625人らを対象に、望ましい死の在り方を聞いた。

 「最後まで病気と闘うことが必要」と回答したのは、患者の8割。一方で、医療者側は医師2割、看護師3割にとどまった。

 「医療者は治療の限界を知っているため、最後まで闘うことは現実的に難しいと感じている。だが、その認識は必ずしも患者と一致していない」。宮下教授の思いだ。

  ~

 外山さんは5月ごろ、放射線治療の効果を調べるため、再び名古屋へ行く。がんを加温して死滅を目指す温熱療法や免疫療法も始めた。

 「いろいろ試して効かなかったら自分でも納得できる。でも、『治療法がない』の繰り返しでは納得できない」

 あきらめない気持ちが人一倍強いだけに、何人もの医師が治療法さえ示してくれなかったことに、今も不信感がぬぐえない。

 宮下教授も課題を投げ掛ける。

 「患者も治療の限界を知る必要はある。しかし、医療者が個々の患者を理解、支援したり、患者が納得できるよう病状説明などに配慮することが、『がん難民』を減らすためにはとても大切だ」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年02月01日 更新)

タグ: がん女性高齢者

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ