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第1部 さまよう患者 (11) 兆し 声を結集 自治体動かす

がん対策をめぐり意見を交わす患者会、岡山大病院、岡山県の担当者。互いの連携を確認した=昨年12月22日、同病院

 乳がん患者会「あけぼの岡山」代表の宮本絵実さん(62)=岡山市北区学南町=が議論の口火を切った。

 「患者の声が聞きたいと言われるが、私たちも医療者や行政の声が聞きたいんです」

 昨年12月22日。岡山大病院(同鹿田町)の一室に岡山県内の患者会4団体と、県がん診療連携拠点病院である同病院の医師、患者支援担当者、県健康対策課の計15人が顔をそろえた。患者会の働き掛けでやっと実現した患者と医療、行政3者の初の懇談会だ。

 「がん対策が今どうなっているのか。情報が入ってこない」と患者会。医療側からは「患者のニーズをくみとる場がない」との悩みが漏れた。約2時間、思いをぶつけ合った結果、岡山大病院が県内の6つの地域拠点病院と開いている会議に3月、患者会代表を招き、連携を深めていくことで合意した。

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 2007年施行のがん対策基本法は、従来の検診中心から治療水準の向上までがん対策を広げ、それを国や自治体の責務とした。ところが、岡山県の反応は鈍かった。

 象徴的なのが、同法に基づき都道府県がつくる「がん対策推進計画」。岡山県が策定したのは昨年2月。国が求めた07年度中より1年近くずれ込み、全国2番目に遅かった。

 内容も国の計画をほぼ踏襲。拠点病院に次ぐ「推進病院」を指定した静岡、がん情報を県民へ提供するホームページを立ち上げた広島など各都道府県が対策に工夫を凝らす中、独自性が乏しいものになった。「出遅れが響き、策定委員会では議論を尽くす時間がなかった」。委員の1人だった宮本さんは残念がる。

 県の計画は拠点病院の機能強化をうたう一方で、病院への09年度補助金は各900万円にとどまり、国が決めた標準額の4割しかなかった。患者会は、計画の進ちょく状況を患者を交え検証する審議会設置も県に提案したが、実現していない。

 岡山県は人口10万人に対する75歳未満のがん死亡率が06年で83・1。全国平均より7ポイント近く低い。「高い医療水準に行政は慢心していたのではないか」。宮本さんの実感だ。

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 声を結集し変化を促したい―。患者会4団体は昨秋、「岡山がん患者・家族連絡協議会」を立ち上げた。そうした取り組みが行政を動かしつつある。

 「これまで患者や家族への支援が十分ではなかった」

 3者による初の懇談会1カ月後の1月23日。岡山市内であった拠点病院主催の市民公開講座。県のがん対策を報告する担当者が「反省」を口にした。患者が交流し悩みを分かち合うがんサロンを2010年度、県として初めて開くことも明らかにした。

 岡山大病院も1月15日、がんサロンを初開催。昨年9月に始めた岡山済生会総合病院(岡山市北区伊福町)に次ぎ県内の拠点病院では2カ所目になる。

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 国民の2人に1人が患うがん。「対策の成否は、みんなが病気を自分の問題として考えられるかどうかにかかっている」と宮本さん。

 医は仁術―。古来より伝わる格言である。仁とは「他者への思いやり」を指す。

 医学の進歩にもかかわらず、さまよう患者たち。医の原点があらためて問われている。

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 第1部おわり。第2部は終末期の医療を通し、患者の求めるものを探ります。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年02月13日 更新)

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