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第2部 「いのち」と向き合う (6) よろず相談 多くの「目」で解決探る

緩和ケア地域連携ミーティングで発言する喜多嶋医師(中央)。多くの「目」で毎回気づかされることがあるという=岡山赤十字病院

 ケアマネジャーが議論に一石を投じた。

 「そもそも『在宅』を勧めたのが良かったのでしょうか」

 昨年末の夕方、岡山赤十字病院(岡山市北区青江)であった緩和ケア地域連携ミーティング。胸腺がんで亡くなった80代女性のケースが取り上げられた。

 子どもはいない。夫がなかなか退院を了承せず、「1週間」の期限をつけて帰宅した。

 「高齢の夫は頼れる人がいなかった。本当は病院で妻に寄り添うことしか考えていなかったんじゃないか」と続けた。

 一方、ホームヘルパーからは、夫が介護に懸命に頑張っていた姿が報告された。家の中はきれいに整理され、妻の話を聞く顔はいつも穏やか。ただ、ヘルパーが趣味の話へ水を向けても、どこか上の空だったという。

 退院を積極的に勧めた緩和ケア科の喜多嶋拓士医師(47)には反省の思いが残った。「(本当の気持ちが)見えてなかったかもしれない」

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 「緩和ケアは『よろず相談』みたいなもの。より多くの立場の目が入ることで気づき、解決することも多い」。喜多嶋医師は言う。

 同病院は2007年4月、緩和ケア科を開設。専門病棟はなく、喜多嶋医師と渡辺啓太郎医師(38)、緩和ケア認定看護師の谷口里枝さん(37)の専従スタッフ3人を中心に外来、入院診療を担う。

 地域連携ミーティングを始めたのは2年前からだ。月1回、他の病棟の看護師や市内の介護保険事業所などから20人前後が集まる。とかく「敷居が高い」とされる病院と地域のサポート役が連携することで、スムーズに入院患者を在宅へ導く狙いもある。

 患者を紹介する岡山中央奉還町病院(同市北区奉還町)の緩和ケア病棟との定例会も開いている。

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 職域や医療機関の枠を超えた「連携」は、緩和ケアの現場でも徐々に進む。

 がん診療連携拠点病院では08年度から「緩和ケアチーム」の設置が義務づけられた。専門の医師や看護師、薬剤師のほか、ソーシャルワーカー、理学療法士、栄養士らも入る。

 岡山赤十字病院のチームは16人。本年度ケアした患者は1月末で150人。前年度より30人増えた。

 「ただ、うちは恵まれている」と喜多嶋医師。多くのがん拠点病院は、医師や看護師が他の診療科と兼務。緩和ケアに専従する人材を割く余裕がない。

 緩和ケアチームにはスタッフが専従などの基準を満たせば、診療報酬が加算される。岡山県内で取得できているのは、岡山赤十字病院と岡山大病院だけだ。

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 岡山赤十字病院の緩和ケア科は最近、患者宅への訪問を試験的に始めた。そこで分かったことを基に、痛みの緩和など専門性が必要な部分で開業医や訪問看護師にアドバイスしている。

 「医師や看護師が24時間対応する病院は患者にとって『特別な箱』。だから、(完治しない)退院を見放されたと思い込みやすい」と話す喜多嶋医師。

 「病院か在宅かの二者択一じゃなく、いろいろな選択肢をつくりたい。どうすれば患者さんが一番安心できるか、です」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年03月02日 更新)

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