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第2部 「いのち」と向き合う (10) 草分け 発祥の地参考に協力を

講演会終了後の懇親会でロフツ医師(左端)らのスピーチを紹介する加藤院長(右端)=1月23日、岡山市

 「症状ではなく、患者のニーズに対応していくことが大切だ」

 近代ホスピス発祥の地とされる英国から在宅緩和ケアの専門家2人が来日し1月22、23日、岡山市内で講演した。

 がん患者と家族を支える慈善団体・マックミラン財団のアン・ブレナン看護師とロージー・ロフツ医師。100年の歴史がある同財団は専門の医師や看護師を育て地域のかかりつけ医らをサポート、2008年にかかわった患者は43万人に上る。

 招いたのは、かとう内科並木通り診療所(岡山市南区並木町)の加藤恒夫院長(62)。20年余り前から15回にわたり渡英し、つぶさに実情を見てきた。

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 加藤院長は岡山県内の緩和ケアの草分け的存在だ。1989年に終末期医療の研究会を診療所内に設立。97年には、中国地方初の緩和ケア病棟(21床)を開設した。

 ただ、病棟は4年後に閉鎖した。症状急変時の入院など在宅ケアを補うための当初の目的が、病棟で亡くなる患者が多く、家に帰る人が少なくなって果たせなくなったからだ。診療報酬上、入院はがんとエイズに限られる。病院から紹介される患者は終末期が多く、「もっと幅広い患者を受け入れたい」との思いもあった。

 閉鎖後は他の診療所医師らに痛みのコントロールの仕方を伝え、一緒に1人の患者を診るなど連携に力を入れた。今回の講演会でも病院や診療所、介護関係などの約30人と実行委員会を組織した。

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 その活動に続く動きも芽生えてきた。

 「『緩和ケアを充実させろ』と患者から医療者を突き動かすくらいの運動にしたい」

 講演会の実行委員でもある松岡順治岡山大大学院教授(緩和医療学・ 癌 ( がん ) 生存学)は本年度、緩和ケアの普及啓発を図る「野の花プロジェクト」を始めた。

 参加するのは、岡山大病院を中心に県内の医師、看護師、薬剤師、患者団体、介護関係者ら。ホームページでの情報提供をはじめ、公民館や職場に医師が出張するミニ講演など、草の根の運動を目指している。

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 <今回の目的はハウツー(How to)を学ぶことではない。(英国の)実践の下に流れている考え方を参考にして岡山県の今後の緩和ケアの活動の基礎を形作ること>

 加藤院長は講演会前、実行委員全員にメールを送った。

 在宅緩和ケアがなかなか広がらない理由は、医療、介護機関の協力関係の希薄さや、地域でどう支えていくかのビジョンのなさが挙げられる。加藤院長は「がんに限らず、『病気になっても暮らしやすい地域』を目指す取り組みを面として広げていくには、もっと大きな力がいる」と感じていた。

 念頭にあるのはマックミラン財団。民間団体だが、医療機関が連携するシステムづくりや患者の電話サポートなど多様な活動で国の制度を補い、施策にも影響を与える。

 「さまざまな職種が同じテーブルについた今回の講演会を『岡山発』の緩和ケアを考え、協力体制を組む足がかりにしたい」と加藤院長。

 中心にあるのは、より良く生きたいという患者のニーズ。その中に答えはあると思っている。

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 第2部おわり。第3部は、岡山県北で揺らぐ救急医療の現場を通し、限られた医療資源をどう生かすか考えます。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年03月07日 更新)

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