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35 森田院長インタビュー 数こなし「臨床力」を

森田潔岡山大病院長。今年7月に本格施行される改正臓器移植法に備え、15歳未満の脳死ドナーを受け入れる体制の整備も進めている

 結局、私はICU(集中治療室)で20日間を過ごした。前回も触れたように、他の患者と比べてもかなり長期間なのだが、おかげで「命の現場」の最前線がどんな状況にあるのか、身をもって学ぶことができた。

 岡山大病院の森田潔院長は麻酔科 蘇生 ( そせい ) 科教授としてICUチームを束ねている。私を診察していただく機会はなかったが、移植患者の周術期(手術の前後、特に術前検査からICU在室期間)の管理を重視し、心を砕いておられる。

 やっと外出して仕事ができるようになった昨年7月、移植医療に対する取り組みをインタビューした。

 「うちは麻酔科蘇生科と外科のドクターの仲がいい。手術室でもICUでも、互いに信頼し合っている」と院長先生は強調する。

 1971年に開設された岡山大病院ICUは、当初から麻酔医が責任を持って運営し、全国の先駆けとなったそうだ。手術中ずっと枕元に立ち、全身に目を配ってくれた医師たちが、ICUでも24時間態勢でみてくれるのは理にかなっている。

 森田院長自身、若いころは「移植までする必要があるのか」と疑問に思うこともあったそうだが、米国ネブラスカ州立大メディカルセンターなどで移植手術を見学し、考えが変わったという。

 「私の目で見れば、まだ元気のいい患者にもどんどん移植していた。ぎりぎりの病状になってから行われる日本に比べ、明らかに確立された『医療』になっている」と実感。麻酔医として積極的に移植チームにかかわり始めた。

 外科医の高い要求に応えるため、麻酔科にも肝移植、肺移植それぞれの専門チームを編成。症例を積み重ね、フィードバックして治療成績の向上につなげている。

 漏れ続ける腹水に対応し、数ある輸液製剤の中でどれをどのくらい「追っかけ」点滴すればよいのか、教科書に黄金律が載っているわけではない。私のケースでも、毎朝回診するチームドクターたちが検査データをにらみ合わせ、討議しながら決めていた。

 「数をこなすことによって『臨床力』が身につく。この先何が起こるかを想像できるかできないかで差がつくんです」。「何が起こるか分からない」からこそ、230例を超えた生体肝移植の経験がものをいう。

 森田院長は2008年9月、院内に周術期管理センター(ペリオ)を立ち上げた。メスを執る外科医、バイタルサイン(生命兆候)を見守る麻酔医だけでなく、歯科医、看護師、薬剤師、理学療法士、臨床工学技士(医療機器操作の国家資格者)らさまざまな専門職がチームを組み、手術のリスクを軽減し、術後の痛みを緩和してできるだけ早く離床できるよう支援する。

 移植チームで培ったシステムを他の手術にも広げていくのが目標だ。20日間ICUでもがき苦しんだ私の症例も、きっと次の方のために役立ててもらっていることだろう。

メモ

 ICU Intensive Care Unitの頭文字を取り、集中治療室と訳される。厚生労働省の施設基準に基づく認定を受け、常時患者2人に対し看護師1人を配置することなど、一般病棟に比べて手厚い治療・看護体制を取ることが求められている。施設により、循環器・心臓血管系疾患の患者に対応するCCU、早産・低出生体重などの新生児を対象とするNICU、重症・難病の子どもを専門とするPICUなど、病態に応じて細分化されたICUの設置も進められている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年01月18日 更新)

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