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新たながん抑制遺伝子 岡山大大学院グループ発見 前立腺で高い効果

フェルナンド・アバラズアさん

阪口政清助手

 岡山大大学院医歯薬学総合研究科の大学院生フェルナンド・アバラズアさん(34)=泌尿器病態学、公文裕巳教授=と阪口政清助手(33)=細胞生物学、許南浩教授=らのグループは、細胞の不死化にかかわる特定の遺伝子が前立腺がんの発生に関与していることを突き止めた。不死化したがん細胞にこの遺伝子を入れると、がん細胞が自滅(アポトーシス)し増殖が止まることを確認。新たな「がん抑制遺伝子」として、最新の米がん学会誌で発表する。

 正常な人間や動物の細胞は分裂・増殖を繰り返し、一定時間が経過して寿命がくると自滅、組織の形や機能を正常に保つ。しかし、がん細胞は不死化して異常増殖し続けるのが特徴。

 研究グループは、正常な細胞には存在するが、不死化した細胞にはほとんどない遺伝子「REIC(レイク)」に着目。REICとこの遺伝子から作り出されるタンパク質の量を、さまざまながん細胞で比較し、特に前立腺がんで大きく減っていることを突き止めた。

 また、無作為に抽出した五十二人の前立腺がん組織を調べたところ、すべての組織でこのタンパク質が減少しており、特に悪性度の高いがん(二十六人)では完全に消失していた。

 ヒトでの抑制効果を確かめるため、前立腺がんをマウスに移植。患部に運び役(ベクター)となるウイルスを使ってREIC遺伝子を入れると、一カ月後に五匹中四匹のがんが消失、残り一匹も大幅に縮小した。他の正常な細胞には影響がなかった。グループは、REIC遺伝子が、不死化したがん細胞を死(自滅)に導く直接的な経路を活性化するとみている。

 現在、前立腺がんに効くがん抑制遺伝子は数種類あるが、効果は一定していない。REIC遺伝子は強力にアポトーシスを誘発し、より多くの患者に適応できるという。

 同大は新たな遺伝子治療を視野に、「前立腺がん細胞のアポトーシス誘発剤」として特許申請を完了した。REIC遺伝子は同大の難波正義名誉教授が二〇〇〇年に発見した。

 同グループは「前立腺がん以外のがんへの応用の可能性もある。さらに研究を進め、岡山大から世界に発信する治療として確立したい」としている。


画期的な研究

 村井勝慶応義塾大教授(泌尿器科がん)の話 全く新しいがん抑制遺伝子の発見であり、画期的な研究だ。急増する前立腺がんの発がんメカニズム解明にも役立つ可能性がある。今後の臨床研究に期待したい。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2005年09月25日 更新)

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