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「ストレスマネジメント教育」岡山県内の中学校実施 養護教諭中心に指導 呼吸法や肩ほぐし運動

「10秒呼吸法をしよう」「布団に入ったらよく頑張ったと自分をほめよう」…。総社中の文化祭では保健委員の生徒がさまざまなリラックス法を紹介した=9月16日、総社中の体育館

藤原忠雄さん

10秒呼吸法(イラスト)

 「あ~、ストレスがたまる!」。子どもたちの間でこんな言葉が頻繁に飛び交う現代。ストレスと上手につき合うため、リラクセーション(緩和)の方法などを学校現場で教える「ストレスマネジメント教育」が注目されている。総社市と旧真備町(現倉敷市)の中学校6校では養護教諭が中心となり、昨年から取り組んでいる。学校を訪ねた。

 九月中旬、全校生徒約四百人が集まった総社中(総社市秦)の体育館。文化祭の冒頭、舞台の上から、保健委員の生徒が呼び掛けた。

 「緊張を乗り越えてすばらしい舞台にするため、リラクセーションをこれから二分間、やりましょう」。暗くした体育館で始まったのは「十秒呼吸法」。腹式呼吸でゆっくり息を吸って、吐く。一分を過ぎるころ、ざわついていた体育館がしーんと静まった。

 呼吸法は、緊張をほぐす技法の一つ。同中では昨年から、保健委員会の活動として、学校行事や定期テストの始まる前などに全校や各クラスごとに呼び掛け、呼吸法や肩を上下する肩ほぐしを実践してきた。

 保健委員会の委員長、三年工藤未梨(みり)さんは「吹奏楽部の演奏前など、緊張した時に呼吸法をして落ち着いている。受験の時や大人になってからも使えそう」。副委員長の三年浅野暢子さんは家でも実践中だ。「イライラした時、以前は周りにあたったりしていたけど、今は部屋で呼吸法をすると落ち着ける」と言う。

 総社中など中学校六校が、中教研の養護教諭部会・総社吉備支部の共同研究として昨年から二年計画で取り組んでいるのが「保健室から広げるストレスマネジメント教育」。各クラスから選ばれた保健委員が委員会活動の時間にストレスに関する知識やリラクセーションの方法を身につけ、学校行事などを通じて全校生徒へ発信。それに加え、学校によっては養護教諭が部活動や保健体育、総合学習に参加、TT(チームティーチング)で指導もしている。

 さまざまなストレスを抱え、保健室に体と心を休めに訪れる生徒は、多くの学校で増加傾向にある。「保健室に来る生徒の対応に追われるだけでなく、予防的にストレスと上手につき合える子どもを育てるため養護教諭として何かできることはないか。そんな思いで六校で取り組み始めた」と総社中の冨岡淑子養護教諭は話す。

 ストレスとのつき合い方を学んだ子どもは、ストレスに強い。それを裏付けるデータも出た。

 同中で昨年、保健委員とそれ以外の生徒のストレスの感じ方を比較分析。呼吸法などを身につけて活用していた保健委員のグループは、同じ事柄に対してもストレスと感じる度合いが減り、「自分で何とか対処できる」と思えるようになった。冨岡教諭はこれらの実践を今年七月末、神戸市であった日本ストレスマネジメント学会の大会でも発表した。

 「今後も学校で定期的に取り組み、多くの生徒が自分で活用できるようになってほしい」と冨岡教諭は話す。


勉強、多忙がイライラ原因

 総社市と旧真備町の中学校六校は昨年春、同じ内容で全校生徒を対象にストレスについてのアンケートを行った。「最近一カ月でどんなことにイライラしたり、つらいと感じたか」との質問では①勉強、成績、進学や進路のこと②やりたくないのに、やらなければならないこと③やることが多すぎて時間がない―の順に多かった。

 男女別では女子の方が男子よりストレスを強く感じている生徒が多かった。また学年別では、全般的に三年になるほどストレスは高くなるが、部活動など二年の方がストレスの高い項目もあった。


日本ストレスマネジメント学会理事 藤原忠雄さんに聞く

リラクセーション方法 教師自身が体感を


 自殺や薬物の乱用など世界各国で問題になっている子どもたちの危機的状況を未然に防ごうと、WHO(世界保健機関)は一九九四年、ストレスへの対処方法を学校教育で教えることを提唱。国内では二○○二年、研究者や教師らによる「日本ストレスマネジメント学会」が設立された。今回紹介した総社中などの実践にも助言し、県内の教員研修で講師も務めている同学会理事の藤原忠雄さん(47)=岡山県立早島養護学校教諭、写真=に、これまでの経緯や課題について聞いた。

     ◇

 「ストレスマネジメント教育」という言葉で定義される前から、私自身も含め学校現場で、生徒の緊張緩和など必要性を感じて取り組む教師はいたが、三年前に学会ができて情報交換が進み、また小中高の保健体育の学習指導要領にストレスを和らげる「体ほぐし」が盛り込まれたこともあり、学校での実践機運は高まっている。

 ストレスマネジメント教育の柱は四つ。①ストレスの仕組みを正しく理解する②自分の場合はどう感じ、体調にどんな変化が出るのかなど、自分のストレスに気づく③リラクセーションなど対処方法を習得する④日常生活で活用できるようになる。

 今の子どもたちは三つの「間」(仲間、時間、空間)がないといわれ、社会性を身につける経験が乏しく、それだけ傷つきやすく、ストレスも抱えやすい。ただ、ストレスは「悪」ではなく、適度なストレスは人生のスパイスとも言われる。大事なのはストレスとつきあい上手になることで、それは読み書き計算と同様に大切な生きる技術だ。

 今、問題なのは、休職者の増加に表れているように教師のストレスが増していること。子どもたちに教えるには、まず教師自身がストレスとつきあい上手にならないといけない。管理職も含め、より多くの教師にリラクセーションを体感し、良さを知ってほしい。

     ◇

 藤原さんに、リラクセーションの中でも取り組みやすい「十秒呼吸法」を教えてもらった=イラスト参照。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2005年10月03日 更新)

タグ: 健康子供

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