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新せとうち産業風土記 第4部 福祉 6 信頼得る義肢装具士

病院の整形外科外来で、足底装具を使う患者から着け具合を聞く橋本義肢製作の大前さん

 「すぐできるからね」―。橋本義肢製作(岡山市南区浦安西町)の義肢装具士・梅井正一(50)は、ベッドに腰掛ける女児(5)に優しく語りかけ、障害のある足にギプス包帯を巻き始めた。

 医療機関の旭川荘療育センター療育園(同市北区祇園)。毎週金曜日の午後、腕や脚の機能を補ったり体のゆがみを矯正する装具や、座位保持装置といった補装具の処方を受けに、障害のある子どもたちが外来を訪れる。

 女児もその一人。ギプス包帯は“患部”の型を取る「採型」作業。出来上がった型を使ってこしらえる石こうモデルを、実際の体に見立てて装具を作る。

パートナー 

 「義肢装具士」は国家資格。1988(昭和63)年施行の義肢装具士法で生まれた。病院やリハビリテーション施設、肢体不自由児施設、県や市の障害者更生相談所に赴き、医師が処方する義肢や装具が利用者の体に合うよう採型、製作、調整するのが主な仕事だ。

 装具は矯正が弱ければ着ける意味が薄れ、きつすぎると体に負担がかかる。微妙なあんばいが求められる。採型も正常な形で石こうモデルが仕上がるようギプス包帯を巻きながら調整する。「経験がものをいう」と梅井。

 「材質的に無理があれば指摘してくれるなど、教わることが多々ある」。小児整形外科の第一人者で、装具を処方する同療育園院長の小田 浤 ( こう ) (68)は、出入りする義肢装具士をこう評価する。リハビリ・障害者医療の現場に欠かせない心強いパートナーとの認識だ。

 厚生労働省によると、義肢装具士の登録者は全国で3430人(2008年12月末現在)。全国9カ所の養成機関(大学、専門学校)で学べば、受験資格が得られる。吉備高原医療リハビリテーションセンター(岡山県吉備中央町)名誉院長の武智秀夫(78)は「学校設置と資格制定が、全国の義肢装具作りの水準を引き上げた」と指摘する。

 橋本義肢製作では、社員のほぼ半数の約30人が資格保持者。入社9年目の大前良輔(30)もその一人。学生時代に7週間の臨床実習をしたのがきっかけで入社した。義肢や装具作りの幾つかの部門を経て、4月から義足製作を担当している。

 大前は10月初旬、病気がもとで左足のすねから下を切断した30代女性に義足を引き渡した。採型から仕上げまでを担当。義足は切断部分をはめる「ソケット」作りに特に気を使う。歩行時に全体重がかかるためだ。3カ月余りの製作期間中、女性がリハビリに通う岡山大病院(岡山市北区鹿田町)で何度も装着具合を調整、確認した。

 週に1日は同病院に詰め、もう1日は備前市内の病院を巡回し外来・入院患者の採型も担当する。心掛けているのは妥協しないこと。「全力を尽くしたと自信を持って言えなければ、患者さんや両親に顔向けできない」と大前。義肢装具士としての意地と誇りがのぞく。

時間とコスト 

 重症心身障害児施設・旭川荘療育センター児童院の理学療法室に9月中旬、舟木義肢(同東中央町)の義肢装具士・安藤浩典(50)が完成目前の座位保持装置を持ち込んだ。

 脳性まひや筋 萎縮 ( いしゅく ) 症など、自力で座った姿勢を保てない人が使う。ウレタンを加工し、利用者の体に合うよう凹凸を作る。

 脳性まひで体が不自由な伊東香菜子(6)が到着を待っていた。市内の小学校に通っており、教室に置いて使う予定だ。

 理学療法士や付き添う母親の声に耳を傾けながら、安藤は取り付けるテーブルの位置、リクライニングの角度、肩ベルトの効き具合など、さらに手直しする個所を確認する。「子どもさんがいい姿勢で座れたときの喜びを糧に何年も仕事をしてきた」と話す安藤。療法士らの信頼も厚い。

 補装具作りには、さまざまな注文が出る。「旭川荘が親同士の情報交換の場になり、多様なニーズを生んでいる」と理事長の末光茂(67)。「福祉県・岡山」の系譜に連なる医療機関や福祉施設。その充実ぶりが利用者の要望を引き出し、百パーセントの満足度で応えようとする義肢装具士や製作担当者の思いが、かつて全国に名をはせた義肢装具作りのレベルを支えている。

 補装具は価格に基準が設けられているが、座位保持装置は形や仕様が一人一人異なり、大型で完成までに時間とコストがかかる。「利益率の低い製品」。舟木義肢社長の舟木健一(62)は言う。だが、やめる気はない。「必要としている人がいる。これまで提供した人への責任もある」。舟木の名刺には代表取締役とともに、義肢装具士の肩書が記されている。

 (文中敬称略)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2009年10月15日 更新)

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