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高次脳機能障害 家族のあした(中)  聞いてもらい前向きに

つらさも悩みも打ち明けあう「家族の集い」。孤立しがちな家族に欠かせない場だ=真庭保健所

 「つらさに、(障害者)本人の首を絞めようとしたこともあります」

 「親族も見て見ぬふりで…」

 9月上旬、17人が長机を囲んだ真庭市勝山の真庭保健所の一室。高次脳機能障害者の家族の話に、同じ悩みを抱える人や福祉、行政関係者らがじっと耳を傾ける。6回目を迎えた「真庭高次脳機能障害家族の集い」は、近況報告から始まった。

 「最近は落ち着いてテレビを見てくれるようになった」と、安心感を吐露する人もいる。輪の中の田村美幸さん(54)=同市、仮名=は「聞いてもらって、共感してもらうだけで、また現実に向き合おうって思える」と笑顔をみせた。

 日々の苦悩や喜びを本音で語り、共に泣き、喜ぶ。障害者家族に欠かせない集まりは、美幸さんの訴えがきっかけだった。

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 夫の友彦さん(54)=同=が病気で倒れ、一命をとりとめたのは5年前。記憶障害などが起きる高次脳機能障害と診断され、美幸さんを妻とも認識できない日々を送っている。

 当時、岡山県内で専門の相談窓口を設けていたのは川崎医科大付属病院(倉敷市)、社会福祉法人旭川荘(岡山市)の県南部の2施設だけ。真庭市周辺には、リハビリ可能な医療機関もなく、美幸さんは相談に乗ってくれた市の保健師に「地域で家族が情報を交換し、相談できる場所がほしい」と粘り強く訴えた。

 保健師が各方面に声を掛け、2007年9月、市町村単位では県内初となる家族会が真庭市に発足した。厚生労働省が06年に制度化した「高次脳機能障害支援普及事業」の後押しも受け、不定期の例会を続けている。

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 県内の高次脳機能障害の家族組織としては、01年に県全体の家族会として生まれたNPO法人「おかやま脳外傷友の会モモ」が“先輩”だ。定期的に障害に関する勉強会や交流を企画している。

 だが組織の拠点は倉敷市。県北など遠方の障害者や家族の中には参加しづらい人も多かった。

 友の会の滝川敬三会長も「孤立する障害者や家族を掘り起こし、行政や関係機関と連携していくためには県内各地に家族会が必要」と話し、真庭をモデルケースにしていく考えだ。

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 「みんなに出会えてなかったら、どうなっていたか」。真庭の集いに3年前から加わった女性(67)が打ち明けた。

 04年に夫がくも膜下出血で倒れ、高次脳機能障害に。人格を失ったような障害が理解できず、夫に物を投げたり、暴言を吐いた時期もあった。「ここでは愚痴を『そうだよね』って聞いてもらえる。それだけで楽になれる」。例会以外にも、電話で励まし合う家族もいる。

 真庭の集いでは昨年6月から、家族らの要望で川崎医療福祉大の言語聴覚士を毎月招いてのリハビリが始まった。地元の専門家も勉強に参加し、地域ぐるみの支援へ機運は高まっている。

 家族会誕生のきっかけをつくった美幸さんは言う。「周りが前向きにならなきゃ、絶対に夫も前向きになれない」

 5年前は独りぼっちだった“点”が、線につながったと確信している。


ズーム

 高次脳機能障害支援普及事業 高次脳機能障害者が安心して暮らせる社会に向け、厚生労働省が06年10月に制度化。都道府県が実施主体となる。岡山県は02年にモデル事業としてスタート。旭川荘と川崎医科大付属病院の2施設に事業委託。コーディネーターによる医療・福祉サービス紹介などの相談支援、障害への理解を深めてもらうためのDVD作成や講演会などを行っている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2009年10月06日 更新)

タグ: 脳・神経福祉

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