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臓器移植の行方 改正A案衆院可決(中)  川崎医科大付属病院 鈴木幸一郎救急部長に聞く

鈴木幸一郎救急部長

 ―救命と臓器移植という二つの医療に直面する救急医として、A案衆院通過をどう思うか。

 「いつまでも移植医療を外国に頼るわけにはいかず、『臓器移植は自国内で完結』との考え方には賛成で、おおむね納得できる。ただ、改正論議が11年間以上も放置されてきたことには疑問もある。今回は、海外での臓器移植自粛を求めるWHO(世界保健機関)の指針決定方針に端を発したという感はぬぐえない」

 ―川崎医科大付属病院では2002年、中国地方初の脳死での臓器提供が1件行われた。

 「私たちはあくまで救急医で、救命に最善を尽くすのが使命だ。われわれにとっては打つ手がなくなり『負け』を意味する段階で、初めて臓器移植の話が出てくる。当病院では1999年から2005年までの7年間に脳死1件を含む13件の臓器提供があったが、すべて家族からの申し出によるものだ。病院側からは投げ掛けていないため、06年以降は1件もない」

 ―多忙な救急現場では、医師の疲弊が問題となっている。改正案が成立してドナーが増えた場合に対応できるのか。

 「法に 則 ( のっと ) った脳死判定や段取りなど、仕事量は確実に増えるだろう。救急患者への治療で手いっぱいの時もあり、現在のスタッフでどれだけのことができるかは不透明だ。ただ、日本臓器移植ネットワーク認定の移植コーディネーターがドナー家族とやりとりをしてくれることを経験上知っている。コーディネーターの増員など、救急医が治療に専念できる環境整備を進めるべきだ」

 ―A案は本人が拒否していなければ、家族の同意で臓器提供できる。成立すれば、病院側から提供の話(オプション提示)をするのか。

 「大学病院は若いドクターも多い。移植医療に対して強い信念を持っていない限り、オプション提示は中堅、ベテランのドクターでも切り出しにくい。今後の対応は法律の行方と国民の意識などをくみ取りながら考えていくことになるだろう」

 ―救急医として、どのような臓器提供、移植が行われるべきだと考えるか。

 「移植だけでなく、どんな医療も患者さんと医師相互の信頼関係が不可欠。双方に責任があるだろうが、この信頼関係が近年、崩れてきている。両者が信頼し合えれば提供の意思表示も、医師からのオプション提示もしやすくなるのではないか。法が改正されたとしても一足飛びに移植医療が進展するわけではない。移植について国民の理解が深まり、脳死判定と移植手術を行う医療機関が人的・経済的に無理をせず実施できる枠組みが整ったときに初めて軌道に乗るだろう」


 すずき・こういちろう 川崎医科大助教授、同大付属病院救急部副部長など経て、2004年から現職。同大教授で、専門は救急医学。和歌山県立医科大卒。広島市出身。60歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2009年06月21日 更新)

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