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第24回 国立病院機構南岡山医療センター 神経・筋疾患治療 中国地方の基幹施設 療養介護病床も新設

柚木さんとパソコンを使ってコミュニケーションをとる井原部長(右)と信國医長(左)

 「柚木さん、体の調子はいかがですか」

 南岡山医療センターの病室で、神経内科の井原雄悦部長が声を掛ける。

 柚木美恵子さん(48)。二十三年前、全身の筋肉が衰えていく筋 萎縮 ( いしゅく ) 性側索硬化症(ALS)を発症した。

 足の指がわずかに動くだけで、人工呼吸器を装着し、医師とのコミュニケーションはまばたきと、ベッドの上に置かれたパソコン。井原部長の問い掛けに、足元のボタンを指先で押して画面に五十音の表を出し、文字を選びながら文章をつくっていく。

 柚木さんは日本ALS協会岡山県支部の会長を務める。病気の啓発活動に取り組む傍ら、全国のALS患者とのメールが日課だ。

 ALSは手足の筋肉のやせなどに始まり、全身の筋力が衰え、次第に呼吸筋も働かなくなる。脳や 脊髄 ( せきずい ) の運動神経細胞の障害で起きるが、原因は分かっていない。

 年間の発症頻度は十万人に一人。国の特定疾患(難病)に指定され、岡山県内のALS認定患者は約百四十人。そのうち約三割に当たる四十四人(二〇〇七年)が同センターで治療を受けている。

 同センターは、国立精神・神経センター(東京)などと神経・筋疾患ネットワークを形成。ALSに加え、運動失調を生じる脊髄小脳変性症、致死性認知症を発症するクロイツフェルト・ヤコブ病など、神経・筋疾患治療の基幹施設として、中国地方の「神経・筋疾患センター」に。

 今年六月には人工呼吸器を装着した神経・筋疾患患者の入院療養のために、全国的にもまれな障害者自立支援法に基づく療養介護病床を病棟内に開設。「一般の病院では受け入れが難しい神経・筋疾患患者の治療に全力で当たる。これが私たちの使命」と井原部長。

 スタッフは、神経内科専門医の資格を取得している常勤医六人で構成、別にレジデント(研修医)が一人。「医師のほか、看護師やリハビリスタッフも加わったチームで治療とケアを行っている」と信國圭吾・第一神経内科医長は胸を張る。

 人工呼吸器を装着したALS患者は、食べ物やだ液が誤って気管に入り、 誤嚥 ( ごえん ) 性肺炎で亡くなることが多い。同センターでは、肺炎を繰り返す患者には気道と食道を分離する誤嚥防止手術を行っている。

 「誤嚥防止手術により肺炎の頻度は大幅に抑えられる」と信國医長。肺炎対策全体の効果により、十年生存率は一九八〇年代は23%だったが、現在は87%まで向上したという。

 井原部長は「肺炎を抑制すれば人工呼吸器を装着したALS患者の生存率は飛躍的に高まる。今後も最先端の診断・治療・予防の研究に取り組みたい」と話している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2008年08月12日 更新)

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