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第27回 きのこエスポアール病院 認知症の医学療法 100人100通りの対処

病棟内を回診する藤沢副院長(右から2人目)。薬だけに頼らず、患者とのコミュニケーションを欠かさない

 五人の常勤医が鑑別診断する。看護師、介護士、作業療法士、薬剤師らスタッフは総勢百人を超す。年間約八百人の新患外来は、早期発見もあるが、症状が進行し家族が困っている人、施設に入所している人が施設スタッフに付き添われ来院する例もある。「認知症は一人一人が異なる病態、特徴がある。対処も“百人百通り”」と、藤沢嘉勝副院長。

 かつて痴ほう症と呼ばれた認知症の患者数は現在、国内で百五十万人から二百万人。二〇一五年には二百五十万人が要介護状態になるとの推計もある。最も多いアルツハイマー病は国内患者の約半数とされ、きのこエスポアール病院でも六~七割を占める。

 アルツハイマー病は、脳内に蓄積するベータアミロイドタンパクという異常物質が原因とされる。研究者の間ではベータアミロイドタンパクを取り除く特効薬開発が進められているが、根本的な治療法は確立されていない。

 一方、診断はCT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像装置)、PET(陽電子放出断層撮影装置)など検査技術の進歩で、正確さが増している。

 投薬は治癒こそ望めないが、一定期間の進行を緩やかにする「塩酸ドネペジル」(アリセプト)が有効。きのこエスポアール病院は患者の症状が軽い時期から、初期の抑うつ期、中期の混乱期、末期の寝たきり期など、抗うつ剤、睡眠導入剤などと組み合わせ使用する。家族らを悩ませがちな 徘徊 ( はいかい ) や妄想、攻撃的言動などの精神症状・BPSD(行動障害)には、副作用が強い向精神薬をできるだけ避け、抑制効果のある漢方薬を活用している。

 認知症の人の行動障害、精神症状は、環境的な要因が少なくない。藤沢副院長ら医師は患者のカウンセリングとともに、家族らにも患者の生活について聞き取り調査を行い、対処法を指導。必要な場合は入院、グループ内施設の利用を勧める。

 藤沢副院長は「認知症の精神症状は、コミュニケーションが思うようにとれないために起こる場合が少なくない。治療はすぐに薬剤で対応せず、その背景を考察して原因を取り除くことが大切」と指摘している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2008年09月09日 更新)

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