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第27回 きのこエスポアール病院 生活重視の空間 ゆったり家庭的 徘徊や興奮軽減

一人一人の生活を大切にしようと、ユニットケアを取り入れた病棟内。看護師らスタッフも制服を着ないで患者と接する

篠崎人理施設長

 ゆったりしたソファやシステムキッチン、テーブル。入院病棟は病室というよりも、ほのぼのとした家庭の雰囲気が漂う。

 病棟は一九九〇年代後半、隣接する、きのこ老人保健施設(篠崎人理施設長)に続き、ユニットケアを導入。病棟を「治療の場」から「生活の場」へと切り替え、患者一人一人を中心に置いたケアを展開している。

 病棟内を複数の生活単位に分けるため、患者が施設内を自由に歩き回ることができ、当時は画期的な取り組みとして関係者の評価が高かった回廊式廊下を間仕切りし、各ユニットを整備した。現在は四病棟の百九十二床を十四のユニットで構成。患者十人の一ユニットに、看護師、ケアワーカーら五人を配置している。

 施設構造の変更と同時にスタッフの意識改革を進め、患者の生活をゆったりした家庭風に工夫している。各ユニットは看護師、ケアワーカーは制服を着用しない。エプロン、Tシャツといった私服で勤務し、患者の“家族”として過ごす。休憩時間もできるだけユニット内で過ごす。

 テレビや畳、冷蔵庫などを置いているほか、食器類もプラスチック製を使わず、割れ物を使用するなど、患者のそれまでの生活に近づけるよう、環境づくりを徹底している。

 認知症患者の治療は、かつては自由放任ケア、集団訓練などにも力を入れた時期があるが、思うような成果は得られなかったという。だが、ユニットケアの実施後は、スタッフがいつも患者のそばにいること、落ち着いた暮らしができることから、行動障害(徘徊)が減ったり、精神症状(興奮)が軽減する人も少なくない。

 きのこ老人保健施設の篠崎施設長は「施設入所者も入院患者も本当は自宅に帰ることを願っている。ユニットケアは単に施設を仕切るのではなく、そうした人々に第二の住まいとして穏やかに生活してもらうこと」と言う。佐々木健院長は「認知症は接し方次第で良くも悪くもなる。病気だけ診ないで、人間性に応じた付き合いを深めていけば、抱えている問題が解決できることがある」と話している。

ズーム

 ユニットケア 考案者は、きのこ老人保健施設副施設長の武田和典特養・老健・医療施設ユニットケア研究会代表。病棟内を細かく区切り、入所者とスタッフが10人程度の小単位で生活する介護スタイルで、個別ケアを目指すための方法論。一斉のおむつ交換、大食堂での食事、順番待ちの入浴などの集団的介護に疑問を持った現場スタッフの意識改革から生まれた。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2008年09月09日 更新)

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