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瀬戸内海巡回診療船「済生丸」が老朽化  済生会があり方を検討

1990年に就航した済生丸「3世号」

済生丸の診察室で高齢者の医療相談に応じる内科医=19日、石島

 半世紀近く瀬戸内海の離島住民の健康を支えてきた国内唯一の巡回診療船「済生丸」(166トン)が岐路に立っている。老朽化が目立つが、最大6億円に上る新船建造費用のめどが立っていない。運航する社会福祉法人・済生会(東京)は今月、将来のあり方について本格的な議論を始めた。

 19日午前。玉野市の無医島・石島の港に済生丸が接岸すると、島民が次々とタラップを上って来た。島の人口は103人(1日現在)。このうち約4割が65歳以上だ。

 「ずっと待っとったんよ」。半年ぶりの巡回診療に、にぎやかな声が船内に響く。胸部エックス線撮影と大腸がん検診、医療相談を実施。約1時間20分の間に42人が受診した。

 10年近く前、巡回診療で膵(すい)臓の病気が見つかった東元多嘉子さん(82)は「市内にかかりつけの医療機関はあるが、一人では出かけられない。船が定期的に来てくれるのは助かる」と感謝する。

 済生丸は済生会が創立50周年を記念して1962年に就航させた。医師、看護師と検査機器を載せ岡山、広島など瀬戸内4県にある68の島や半島を回り、健康診断、がん検診、内科診療などを原則無料で実施。2008年度までに延べ約51万人が利用した。

 乗船して約10年になる木村一幸船長(55)は「島は医療過疎地の典型。とりわけ高齢者は診療機会に恵まれていない。巡回診療の必要性を痛いほど感じる」と話す。

 長年の活動で目立つのが、船体の傷み。3代目となる現在の「3世号」は90年の就航から20年たち、デッキがきしみ、雨漏りがする。

 同会は06年から新船建造を検討。だが、造船需要の高まりや鋼材の高騰で見積額は3世号の倍以上となる6億円に上った。医療機器の更新にも数千万円かかる。

 瀬戸内4県は建造に計2億円の支援を予定している。だが、3世号建造費用の約7割を占めた民間の寄付は景気低迷もあって見込みにくいという。

 ただ、島民のニーズは根強い。済生会が昨年10月、真鍋島(笠岡市)の住民を対象に実施したアンケートでは、約9割が運航を「存続してほしい」と望んだ。

 同会は15日、外部有識者を含めた検討会を立ち上げ議論を開始、5月中に方向性を出す方針。検討会のトップを務める岩本一寿常任理事(72)は「負担は重すぎるが、何とか前向きな結論を出したい」と話している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年04月25日 更新)

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